なんとなく、本当にただなんとなく何かを感じて顔を上げた。
斜め前に持ち上げた視線、その先でこちらを見ている楽進殿とばっちり目が合う。
小さく、あっ、と声を上げた楽進殿はわたわたと忙しなく目を泳がせ、そしてどこか恨めしそうな顔で私を見た。さっきまで武具の手入れに熱中してたというのにどうしたのか。
「…あの、」
「はい?」
恐縮なのですが、と言った楽進殿の次の言葉を待つ。が、口を開いたり閉じたり、二の句が告げられないでいるらしい。
「楽進殿?」
促すように名前を呼ぶと、ぴくりと肩を揺らして何とも言い難そうに口を開く。
「……それは、あとどのくらいで読み終わられますか」
「…え?」
それって。
楽進殿の物言いたげな視線を辿ると、私の手の中にある書物に行き当たった。さっきまで私が読んでいたものだ。
「読み終わるにはもう少し時間がかかりそうです、けど」
まだ半分以上残っている未読部分を確認しながら答えると、目に見えて楽進殿が気落ちした。そしてまた恨めしそうにこちらを窺ってくる。
一体なんだろう。行動の意味が読めなくて首を傾げると、痺れを切らしたように楽進殿が私の方へにじり寄ってくる。
そのとき初めて、楽進殿の目元が微妙に赤いことに気が付いた。
「…その、」
「はい」
「……書物ではなく、私を構って頂けたら嬉しいのですが」
目元だけでなく頬も赤くして呟かれた言葉に、は、と声が漏れた。
楽進殿は相変わらずどこか不満そうな表情をしている。
「せっかく、その…二人きりなのに、唯緋殿は書物ばかりに夢中で」
「…え、」
「埒もないことだとは分かっているのですが…妬いてしまいます」
眉間に皺を寄せて熱っぽく囁いた楽進殿を呆気に取られたように見つめた。
私が書物を読んでいたから、嫉妬して拗ねている?
まじまじと見つめると、楽進殿は居心地悪そうに喉を鳴らす。
というか、約束通り室にお邪魔したら楽進殿が夢中になって武具を相手していたので、時間潰しに書物を読んでいたというのに。
「…自分でも子供染みた言い種だと思います」
私の考えていることが分かったのか、きまり悪そうに楽進殿が小さく目をそらした。
「嫉妬深い男はお嫌いでしょうか」
至近距離で熱の籠った眼差しを隠すことなく囁かれる。
熱が伝染したように火照る私の顔とは対照的に、楽進殿はいつの間にか頬の赤みが引いていた。
嬉しいと思ってしまった時点で、私はもう目の前のこの人には敵わない。
失礼します、と言葉では丁寧ながらも、私の手から書物をどかす腕は性急だ。
ビームひとつ狙い撃ち
リクエスト内容[楽進/嫉妬甘/敬語主人公]
書物に嫉妬したと言って、それすら相手をその気にさせる材料にしてしまう楽進マジ策士。恐縮です!あまり主人公が喋っていなくて敬語設定を上手くいかしきれず…きた様が気に入って下されば良いのですが;お祝いのお言葉もありがとうございます!アップが遅くなり申し訳ありません。今回はリクエストありがとうございました!