#社会人設定



濃茶色の髪がやわらかに光るのをぼんやりと見た。
瞬きをして、少しだけクリアになった視界に見慣れた枕とシーツが映る。そこに広がる髪と肩、背中ときて、もう朝かと意識を起こした。
僅かに上体を起こして枕元の時計を見ると、10時過ぎを指している。久々に二人揃っての休日、目覚ましをかけずに寝た結果だ。
もぞりとまた元の位置に戻ると、目の前の背中が寝返りを打った。さっきまで見えなかった顔が向けられる。
まだ半分微睡みの中にいる顔で馬岱が私をぼーっと見る。髭が伸びて変な寝癖がついている馬岱はものすごく無防備。

「…いま、何時?」
「10時」

寝起きの掠れた声で言葉を交わすと、馬岱の目が覚醒したようにぱちりとした。

「…随分寝坊しちゃったねぇ」
「だね」
「起きる?」
「うん」

にこりと笑った馬岱が掛け布団を上げて身体を起こす。
私もゆっくりと起き上がって背伸びをした。朝日がカーテン越しにやわらかく揺れていて気持ちいい。
名前を呼ばれて隣を向くと、触れるだけのキスをされる。微妙に伸びた髭がくすぐったい。
唇を離した馬岱は嬉しそうに、おはよう、と言った。欧米人のようなこの朝の挨拶は彼のデフォだ。

洗面所から戻ると、部屋の中をコーヒーの匂いが満たしていた。
キッチンを覗くと慣れた手つきで野菜とハムを挟んだサンドイッチを切る馬岱の背中。鼻歌を歌いながら揺れる背中は実に楽しそうだ。

「馬岱ー洗面所どうぞ」
「ん、ありがとう。オムレツ作っといてくれない?」
「えー、いいけど馬岱が作ったやつ食べたいな」

軽口を叩く私に馬岱は振り返って苦笑する。寝癖の髪が跳ねていて可愛い。

「うちの喫茶店、本当はオムレツはメニューに無いんだからね」
「いつも私が行ったら作ってくれるじゃない」
「それは唯緋だから特別に作ってるの」

黒いエプロンをしてキッチンに立つ馬岱は仕事中の姿に少し似ている。
OLの私がいつもスーツで立ち寄る喫茶店の調理担当は、私に特別待遇してくれているらしい。良いこと聞いた。

「分かった。オムレツ作る」

冷蔵庫から卵を出した私に、馬岱は外した自分のエプロンを頭からかけて後ろを結ぶ。
ついでに後ろから私に軽くハグして、洗面所へと向かった。

数分もせずに戻ってきた馬岱はさっぱりした顔で髭もきちんと整えられていた。
寝癖はそのままなのに髭は剃ったのかー、と思っていると馬岱が笑う。

「だって唯緋、くすぐったそうにするじゃない」
「あ、ばれてた?」

出来上がったオムレツをお皿に乗せながら笑うと、俺の目はごまかせないよぉ、と言いながら馬岱がお皿を運んでくれる。
サンドイッチを運び、カトラリーを用意していると馬岱はマグカップを2つ静かにテーブルに置いた。コーヒーの良い匂いが立ち上っている。

「オレンジ食べる?ヨーグルトも出そうか」
「朝から豪勢だねぇ」
「時間的にはブランチ?だし良いかなって」

笑って頷いた馬岱に、冷蔵庫を開けてオレンジとヨーグルトを取り出す。
テーブルに全てを並べ終えて椅子に座ると、寝癖をいじる馬岱と目が合った。なんか幸せそうな顔してるなぁ。多分私もだけど。
二人同時に、いただきます、と言ってコーヒーの入ったマグカップを手に取る。
なんでもない良い1日の始まりの香りがした。




分け与える方向性






リクエスト内容[馬岱/現パロ同棲中/休日遅く起きて一緒にブランチ]
馬岱は、朝目が覚めて大切な人がすぐ隣にいるということに何よりも幸せを感じる男な気がします。「今日も一人じゃなかった」って感じて、幸せでとりあえずいちゃいちゃちゅっちゅっしたい。スキンシップ好きもあるのかなと思いますが…そんなイメージで書かせて頂きました。スノウ様にお気に召して頂ければ幸いです!お話を楽しんで下さっているとのこと、嬉しいです(*^^*)アップが遅くなってしまいすみませんでした。どうぞこれからもよろしくお願い致します。今回はリクエストありがとうございました!



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