昼休みの事件の続き



一週間前の昼休みにクラスメイトの徐庶くんが放った爆弾を、私は未だに消化できずにいる。
小学校から高校まで記憶を遡っても、学校や授業以外で男子と積極的に関わったことのない私にとってはまさに青天の霹靂の出来事だったからだ。少女漫画で主役を張るような、かわいい女の子にしか起こり得ないことだと思い込んでた。
この一週間、気付けば私は徐庶くんを無意識に目で追っている。
今でもあれは夢だったんじゃと思うこともある。けれど徐庶くんと目が合うことも少なくなくて、そんなときに限って徐庶くんの声や言葉を思い出してしまう。(勿論目は大慌てでそらす)


「…うぅ…どうしよう…」
「だからー、悩みすぎだって」

お弁当を広げたまま、まともに箸もつけられず項垂れる私に三娘が溜め息を吐いた。う、と更に言葉に詰まる。

「告られたんなら返事すればいい話でしょ?」
「こ、告白、なのかな」
「いやあんたね…」

浮き足立って落ち着かない私を脱力したような目で見た三娘は、食べていたうどんを一旦放置してケータイに視線を移した。指が素早く動くのを眺める。関索くんにメールでも打ってるんだろう。
もし告白だったなら私が一言、はい、って言えば、私と徐庶くんは三娘と関索くんみたいな関係になるんだろうか。
ふっと浮かんだ想像に慌てて頭を振ってかき消す。

「す、好きって言われたわけじゃないのに図々しいような気がしてきた」
「…言ったようなもんじゃん」
「違う、気になるって、そう…」
「てかそれ、唯緋も一緒でしょ?」

三娘の言葉に、私の中で何かがすとんと落ちた。
徐庶くんは私のことが気になるって言って、それから私はそのことばかり考えているわけで。それはつまり私は徐庶くんのことが、

「…三娘」
「これ持っていって当たって砕けてきたら」
「…砕けたくはないなぁ」

恐る恐る上げた私の顔に、昨日作って持ってきたマフィンをずい、と突きつけて三娘が猫みたいに笑う。三娘と食べようと思って作ってきたものだけど、お許しが出たみたいだ。
このままもやもやしてても始まらない、ここが勇気の出しどころかもしれない。







「あの、徐庶くん」

終礼の後、荷物を持って静かに教室を出ていこうとする徐庶くんの背中に声をかけた。上擦ってしまったし振り向いた徐庶くんは驚いた顔をしていたが、必死に自分を奮い立たせる。

「ちょっとだけ、いいかな」
「……あ、あぁ勿論」

徐庶くんの声もどことなく上擦っていて、顔も微妙に赤い。きっと私も同じ状態だ。
部活だなんだとざわついている教室は誰も私たちに気づいていないようで、私と徐庶くんはそっとそこを抜け出した。
心臓がばくばくしてる。前を歩く徐庶くんの背中の広さばかりが目についた。


「…え、と…俺は電車なんだけど」
「あ、私バス…」
「…じゃああの、少し歩こうか?」

下足室を抜け校門を出たところで徐庶くんが緊張したように振り返って言う。
私が頷くと、バス停の方向へとゆっくり歩き出した。駅は逆方向なのに、私に気を遣ってくれてるみたいだ。
隣にそーっと移動すると、徐庶くんが目に見えて肩を揺らした。つられて私の肩も跳ねる。

「…あ、あのね、これ良かったら」

もうどうにでもなれ、と鞄から紙袋を取り出す。顔は見れないまま言い訳だけが口から出た。

「前にお菓子のこと言ってくれたから、その…」
「…あぁ、うん」
「マフィンなんだけどたくさん作りすぎちゃって、…いらないならいいの全然」
「え!?あ、いやいらなくないよ!」

がさりと音を立てて紙袋が取られ、思わず目を上げる。
真っ赤になった徐庶くんがしっかりと紙袋を抱えているのを見て、何故か無性に恥ずかしくなった。また顔を下げる。

「あの、ありがとう。本当に嬉しいよ」

すぐ隣で聞こえた徐庶くんの声が本当に嬉しそうで、もうどうしようもなくて、正直限界に近い。顔は熱いし心臓は相変わらずうるさいし、倒れてしまいそうだ。
ちら、と腕時計を見ると、バスが来る3分前。バス停までの距離はあと少し。
私はあらん限りの覚悟を決めて口を開いた。

「…徐庶くんって、運動神経いいよね」
「え?そ、そうかな」
「数学すごく得意だよね。難しい問題すらすら解いてるし」
「えぇと、そんなことないよ」
「最近、徐庶くんのことばっかり見ててそういうの気づいて」

え、と小さな声を漏らした徐庶くんの足がぴたりと止まる。
バス停はもう目の前、そして道の先にやって来るバスが見えた。
今しかない。

「――そんな徐庶くんのこと、すごく気になってます」

一瞬、その場の空気が止まった気がした。
言った。言ってしまった。
それだけ!と外れた声で言い逃げのように続けて、走り出そうとした。

ぱしり、と腕を掴まれた。

心臓があり得ないくらい跳ねて、体温が下がる。
私の右手首を掴む大きな手が熱くて、それに気づいた途端またすぐに体温が上がった。
もし振り返ったら、――きっと、本当に倒れてしまう。




ドラムロールはきみ






リクエスト内容[徐庶/『昼下がりセレナーデ』後日談/甘酸っぱい青春]
奥手な高校生の恋が始まる瞬間っていいですね。部活内なども王道ですが帰宅部カップルはいかがでしょうか。個人的にはかなりありだと思います。忍様に『青春している徐庶』とリクエストを頂き、全力をもって書かせて頂きました!アップが大変遅くなってしまい申し訳ありません…気に入って下されば幸いです。応援のお言葉もありがとうございます(*^^*)し、しかも張コウさんがより好きになって頂けたと…!嬉しいですありがとうございます!拙宅の張コウのお話もお気に召してもらえて幸せです。感涙
これからも張コウは勿論、色々なキャラのお話を書いていきたいと思っておりますので、気が向いたらつついてやって下さいませ。今回はリクエストありがとうございました(^^)



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