「そんなの、鍾会がお前のこと好きだからに決まってんだろ」
がつん、と頭に衝撃を受けたみたいだった。
目も口も中途半端に開いたまま、唖然と目の前の司馬昭を見る。
私にとってはとてつもない一言を放っておきながら、特に関心はなさそうな様子で雑誌を捲っている姿に多少怒りがわいた。メンズノンノを叩き落としてやりたい衝動を堪える。
「はぁ?好き…いや無いよ」
「何で言い切れるんだよ」
「…だって今までずっと近くにいたし、そういうんじゃないよ私と士季は」
言いながら体の奥、お腹の底が無性にむずむずした。そんな言葉で自分たちを形容することなんか考えたこともなかった。
首を横に振ると、司馬昭は面倒そうに私に目を上げ口を開く。
「そう思ってたのはお前だけだったってことじゃないのか?」
え、と思考が途切れる。
私が考えもしなかった感情を、士季は持っていたんだろうか。一緒だと思い込んでいただけで、士季は違ったんだろうか。
渦巻いて抑えのきかない頭を抱えるように俯く。じゃあ、もし司馬昭の言うことが正しいとしたら、
「……士季は、私が先輩の話をしたからヤキモチ焼いたってこと?」
「まぁそうなるな」
今度は、無いと断言できなかった。それ以外に答えが見つからないような気がしたからだ。
黙り込む自分の中で、妙に動悸のボリュームが大きくなった気がする。
「…ヤキモチ焼くっていうのは、好きだからなの?」
「そうだろ。唯緋は妬いたことないのか?鍾会絡みで」
一瞬考えて、すぐに首を振る。
「無い。士季が女子といい感じに絡んでるとこ見たことないし」
「あー…」
司馬昭が何ともいえない表情で私から目を逸らしたのを見て、何故か少し冷静になった。
タイミング良く鳴った予鈴に、相談料として買ってきたいちご牛乳を献上してやる。おー、とか言って受け取った司馬昭はケータイを弄っていて、微妙に口元が緩んでいた。リア充め。
*
結局何が分かったんだっけ。
そうだ、ヤキモチの話だ。
掃除のゴミ袋を持って廊下を歩きつつ、うーんと首を捻る。
仮に、士季が妬いたんだとして、じゃあ私はどうすればいいんだろう。好き、だとかそんなものは何とも居心地が悪い気がした。変に落ち着かなくて、でもそれが何故なのかが分からない。
心中唸りながら歩いていた私の視界に、渦中のあいつの姿が突然飛び込んできた。
こんなときばっかり、士季の姿を見つけてしまう自分にうんざりする。同時に、何だか体の隅っこが、ずき、とした。
何かの備品を手に歩く士季の背中にもやもやして、無意識に違う道に足を向けようとする。
そのとき、視界の端からもう一つ姿が現れた。
「――」
ちらりと分かったのは女子の制服。
引き寄せられるように、離しかけた目を向けると、士季が何かを受け取っているところだった。
なんてことない備品だ。士季が忘れたそれを渡しにきた、ってとこだろうか。
二言三言話した後、微笑む女子に士季の口は確かに、ありがとう、と言った。
ふいに、胸の奥がざわりとする。
いつも私に見せていた尊大な顔は全く見せず、淡々と言葉を交わす士季の姿を、私はまたしても嫌だと思ってしまった。
女子はすぐに離れて去っていったのに、私は立ち尽くしたままで、遠ざかるつんと伸びた背中をただ見ていた。
あれ。