一周年企画 | ナノ


あ、また時計見た。ケータイ開いてすぐ閉じて、もこれで何回目かな。片手で足りなくなってから忘れた。
服の裾を意味もなく引っ張って整えるのもそんなに何回もやったって意味なんて無いだろうに。
そして寝癖が直りきらなかったらしい後ろ髪の跳ねもしきりに手で押さえたり撫で付けたりしてる。直る兆しは一切無いけど。
服と言えば、出会った頃より徐庶は格段に服のセンスが良くなった。というより、昔はあまり服装に頓着するようなタイプじゃなかったらしい。それでも顔が良い分ダサい格好でもそれなりに見栄えするというのは腹立たしかったが。
今では、ある時に私が「その服オシャレだし似合ってるね」と言ったブランドのものばかり着るようになって服のセンスも磨かれている。あれ、じゃあ私のお陰じゃないか。

あ、女の子。話し掛けられてる。二回目。分かりやすく困ってるなぁ。
あれだけの長身がすっと立っているとやはり目立つ。しかも徐庶は壁とかに凭れて立つようなタイプじゃないから、そういうとこももしかしたら好感度高いのだろうか。

何とか女の子から解放されたらしい徐庶は、溜め息を吐いて落ち着きなくキョロキョロと視線をさ迷わせた。そして眉を下げてケータイを取り出し開く。
しばらく画面に目を走らせていたが、またケータイを閉じてしまい、ちらりと時計を見やってから気を取り直したように顔を上げた。

そろそろ頃合いかな。
自分の時計に一瞬目を落とし、私は足を踏み出した。



「――徐庶、お待たせ」

歩み寄りつつ横から声をかけると、すぐに振り向いた徐庶の顔がぱぁっと明るくなった。うーん、分かりやすい。

「待たせたみたいでごめんね?」
「いや、俺が早く来すぎただけだから。君が謝ることはないよ」

少し照れくさそうにまた髪を触る徐庶に、にっこりと笑って返す。
待ち合わせ時間の30分前には場所に到着して私を待っているというのが徐庶の常だ。正直未だに意味が分からない。
でも私を待っている間の徐庶の行動を見るのが面白いから、あえて放置している。それにちゃんと待ち合わせ5分前にはこうやって声をかけてるんだから。遅刻だってしてない。

ふと、私のバッグにちらちらと視線をよこす徐庶に気付く。
いつもより大きめのものであるそれにどこか期待を込めた目を向けている徐庶の心理が手に取るようで、思わず笑いそうになった。寸でのところで堪える。

「ね、今日はどこ行こうか」
「え!?あ、あぁ、そうだな。えぇと…」

視線を遮るようにわざとらしく徐庶の腕に両手を絡めると、普段そんなことしないせいか徐庶の肩が思い切り跳ねた。
顔を赤に染めてあわあわとしている徐庶の横顔を見上げて微笑んでみせる。
チョコをあげるのはもう少し焦らしてからにしよう。今日一日の終わりくらいまで。




Happy Valentine!




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