一周年企画 | ナノ
寒い疲れた寒い。
降り積もった雪にざくざくと足跡をつけながら唸るように体を縮こめる。歩くスピードは普段に輪をかけて速い。
例年にない大雪で、仕方ないとはいえ交通網にも大きな影響があり、普段の倍の時間をかけて目的地の駅に辿り着いた。だというのに、駅から出た瞬間のこの雪景色。
ここスキー場だったっけ?と言いたくなるような光景に、疲れきった体は溜め息を吐くばかり。綺麗だとかそんな感想を持つ余裕もない。
そして歩き慣れた道を黙ってもくもくと進んだ。
そんなわけでやっとの思いで到着したマンションの廊下、ドアの前で鍵を取り出す。使うことにも慣れた合鍵を差して回すと、ガチャリと小気味良い音がして少しほっとした。
そのままドアを開けると、暖かい空気が頬を撫でていき、やっと私は一息つけたのだ。
「惇、来たよー」
扉で閉ざされた奥の部屋に向かって声を上げながら、後ろ手にドアを閉め鍵をかける。
すぐに奥の部屋から現れた惇は少し険しい顔で私に歩み寄り手を伸ばした。
「雪が降っていただろう。大丈夫だったか」
「寒かったー」
コートについた雪を軽く払ってくれる惇に、右手に提げていた袋を、ずい、と押し付ける。手を止めて怪訝そうにその袋の中を覗いた惇の顔がなんとも言えない表情に変わった。
「惇の好きなウィスキー買ってきた。それバレンタインね」
「…」
「ちなみにチョコは私のです」
堂々と宣言すると、惇はやはりなんとも言えない顔で首裏をかき、私を見る。
チョコが大好物な私のことは惇も重々承知のはず。微妙な表情はどうやら私の自分チョコに呆れた、というわけではないらしい。
「ん?何かあった?」
「…いや、その」
「どしたの?」
私の手からビニール袋を受け取り、とりあえずと奥の部屋へと続く扉を開けた惇の後をついていく。リビングは玄関とは比べ物にならない暖かさで、私はさっきより大きく息を吐き出した。
そして何の気なしにテーブルに視線をやり――きょとん、となった。
「…え、」
「…」
「え、これ、チョコ、え?」
テーブルに所在なさげに置かれていた包みは、数時間前に私が「ラッピングいいです自分用なんで」と断ったそれと全く同じで。
隣の惇を見上げるとやっぱりなんとも言えない顔をしていて、僅かに私から目をそらす。
「…その銘柄が好きなのだろう」
「…そうだけど、欲しかったやつまでよく分かったね」
「あれだけチラシを見ていれば分かるわ」
苦笑した惇に、コートを着たまま抱き着くと、冷たい、と文句を言われた。
ムードがないと反論を返しつつ離れた私を、惇がコートを脱ぐよう促しながら鼻で笑う。お前に言われたくないと言わんばかりだ。
でも普段よりサービスの良い惇に私は緩んでいく口元を隠せない。
「先に風呂に入ってこい」
「うん。惇も一緒に入る?」
「…早く行ってこい」
うるさそうに手を払う惇が、背中を向けながらも足を柱にぶつけたのを見て、私の笑みはさらに濃くなった。
Happy Valentine!