#大学生設定
申し訳程度に文字が並んでいるルーズリーフから目を上げ、机の上にあるケータイに手を伸ばす。
時間を確認して、さっき見たときから10分と経っていないことに気付き少し落胆した。
走らせるシャーペンに勢いが乗らないのも仕方がない。
『バイトが終わったら連絡する』
何時間か前にそう締め括られ送られたメールを意味もなくもう一度表示させる。
何度見てもそれ以上の言葉や感情を話してはくれないけど、まぁそれは良いだろう。
「(普段はわざわざ連絡なんかしないくせに)」
少しおかしくなって笑みを溢す。一人でおかしな奴だと言う人もいないことだし。一人だからね。
テストの時期が違うためすでに春休みに突入している彼は、私の勉強の監督をしてやるとかなんとか(意味分からんことを)言って、さっきのメールを送ってきた。
相変わらず気の遣い所がどこかずれているらしい。
あ、…電話か。
突然手の中で震えたケータイを急いでまた開く。(文句言いつつ私も彼からの連絡を待っていたことには気づかないフリだ)
ディスプレイに映し出された名前に、何故か少し心が温かくなった。
「…もしもし、鍾会?」
『…おい。ワンコールで出るとは貴様、勉強しているのか?』
「鍾会からの連絡待ってたからすぐ取っちゃっただけ」
『…ふ、ふん。ま、この私が直々に連絡してやってるんだ。当然だね』
「そうだね(チョロいな)」
『勉強しないと試験も危うい可哀想なお前に何か差し入れでも買って帰ってやろう。私は優秀だからな』
「ありがとう!じゃあハーゲンダッツのクッキーアンドクリーム食べたいな」
『ふん。私が帰るまでに精々勉強に励め。ではな』
やけに悦に入った声で通話は切られ、私はほとんど進んでいないルーズリーフやらペンやらを片付け始める。
高くて自分で買う気にはなれないアイスを暖かい部屋という最高の環境で食すための準備に勤しむ。
扱いにコツがいる彼氏(とアイス)が帰ってくるのはもう少し後になりそうだ。
甘さはカップ1つ分
―――――
鍾会さんなんのバイトしてんだろう。