彼女の笑顔が好きだ。
あまり視力がよくないらしく細い目は、笑うとその瞳を隠す。
一瞬でくしゃりとした表情になるから、そんな彼女の笑顔を見ると俺の中では嬉しい驚きが弾ける。
笑うのに疲れたときは、彼女の所に行って思い切りのいいその笑顔を見ることにしている。
そうすれば、俺も力が抜けて自然に笑えるようになるからだ。
笑い上戸な彼女は俺のくだらない話一つ一つに笑い、ときには笑いすぎて涙を溢すほど。
俺もつられていつも以上に笑ってしまうことも少なくない。
最近、そんな彼女がなんだか気になりだしたかもしれない、なんてふと思った俺は、ちょっとだけ揺さぶってやろうなんて軽く考えて彼女の所に向かった。
「…でさ、若が帰ってこないでその馬だけ帰ってきたんだ」
「あははは、は、馬超殿…かわいそうに…!」
「で、夜になって帰ってきた若は無表情で何も言わないし。なのに、夜中に寝所抜け出して厩で馬に説教してたんだよー!」
「う、馬に説教!、…いかにも馬超殿らしいですね!ふふ」
笑いすぎで溢れた涙を指先で拭いながら尚も笑う唯緋に、俺は小首を傾げるようにして顔を覗き込んだ。
「本当に唯緋ってよく笑うよねぇ」
「馬岱殿のお話いつも面白いですから!」
「唯緋の笑顔、好きだよ。ずーっと見ていたいくらいだよ!」
わざと思わせぶりに放り込んだ俺の言葉に、唯緋は一度だけ目を瞬かせ、顔中をほころばせて笑った。
「じゃあ、ずーっと先の未来で、私がおばあちゃんになって皺だらけの顔で笑っていたら、それは馬岱殿のせいですね」
ガラガラという何かが崩れるような音は、俺の耳元でだけ響いたらしい。
殺し文句に俺は笑うことすらできず、熱くなる頬を隠そうと俯くしかなかった。
それは素敵なお話ですね
(未来も捨てたもんじゃない)