私は自他共に認める寒がりだ。
冬が近付くと装束は厚みを増していき、屋敷を出る日数が極端に減る。
登城しなければならないときや国内視察、遠征は仕方がない。けれどもそれ以外では必要外の外出はしたくないのだ。
そんな私の性質を蜀の人間は重々理解してくれていて、無理に外に連れ出そうということはしない。
冬は苦手だ。動物は冬眠するのに何故人間はできないのか。
そして、空気の読めない男は何故いるのか。
「唯緋、今日もそんな格好をしているのか。まるで蓑虫だな!」
「…」
室の扉をなんの遠慮もなしに勢いよく開けたそいつは、火鉢に向かって背中を丸めている私を豪快に笑い飛ばした。
こめかみが軽く痙攣するが、寒さには変えられない。扉を閉めるよう戸口を睨み付ける。
「たまには外に出て体を動かさんと鈍るぞ」
「…城に上るときに動かしてる」
「それだけでは足りんだろう」
扉を閉めてこちらへ向かってきた馬超からは外の冷気が微かに漂っていて、私は着込んだ服にいっそう包まった。
大体この男が元気すぎるだけだ。一緒の尺度で考えられてはたまったもんじゃない。
「…何か用?」
「ん?おお、相変わらずお前が屋敷に籠っていると聞いてな。遠乗りの誘いに来たのだ」
「そう、遠慮しとく」
「即答せずちゃんと考えろ」
「寒い、無理、一考の余地なし」
はぜる火鉢を眺めながら一息に答えると、馬超が黙り込んだ。
屋敷まで出向いてくれた馬超を蔑ろにするわけではないが、無理なものは無理だ。分かってほしい。
だが黙られると妙な罪悪感は募るもので、もぞもぞ身動ぎしつつちらりと隣の馬超を窺う。
瞬間、視界に大きな手が映った。
「――っ、」
「む、冷たいな」
本当に寒がりなんだな、と言いながら苦笑する馬超をぽかんと見上げる。
私の両頬を包むように宛がわれた両手は少し荒れていて、紛れもなく馬超の手だ。
「ちょ、馬超」
「俺の手はあたたかいとよく言われてな」
距離が近すぎやしないかとか言いたいことはあったが、大きな手からじんわりと与えられる熱に思わず張った肩が落ちていく。冬でもこの男は元気なわけだ。
「…馬超、子ども体温なんじゃないの」
「はは、そうかもしれんな」
「身体中全部温かいんじゃないの。羨ましい」
「なら試してみるか?」
熱の心地よさに緩みきっていた私の耳は、馬超の言葉を一拍遅れて拾った。
試す?
気が付くと何故か馬超は私を真っ直ぐに見つめていて、その目はいやに熱っぽい。
頬に触れていた馬超の親指に唇の端をなぞられて、やっと脳が機能した。
「…冗談やめて。怒るよ」
「俺は結構本気で誘ってる」
馬超の手の温度が上がったような気がする。
いやもしかして私の熱が上がっているのか?そんなことはもう分からない。
ぐい、と力を入れた手に引き寄せられ重なったそれはじんわりとあたたかく、私の瞼はゆっくりと降りていった。
考えるのはまた後で