#夏×現代×水着 その4
テレビの動物番組でたまに見かける南国の鳥のような、そんな配色は正直目に痛い。
フロア自体が白を基調にしているのも、その色を際立たせたいからなんだろう。目元が軽く引き攣ってきた。
そんな極彩色の世界を渡りながら、それはそれは嬉しそうな顔で振り向いて笑う。
「ね、賈ク。どれがいいかな」
「…あー、」
どれでもいいんじゃないか。
言葉は飲み込む。やけに楽しそうにしているらしい気分に水を差す必要性はないだろうからな。
「去年までの水着は赤系統だったから今年は変えたいなー」
誰に言うでもなく(いや俺に言ってるんだろうが)呟きながら水着を物色する唯緋の後を、のろのろとついていく。
夏になれば特設売り場とやらが設置され大量の水着が並ぶ風物詩。だが自分自身がそこに足を踏み入れるのは初めてだった。
お互いの夏休暇の予定が分かり始めた頃、鞄一杯に旅行雑誌を詰めてやって来た唯緋の意思は尊重してやりたい。
沖縄に行きたいとはしゃいでいた横顔は、まぁ、俺にも人並みに可愛いという感情を思い起こさせたわけで、旅行が嫌いというわけでもない。
しかし、女の水着選びに同行する羽目になるとは想定外だった。
「最近はワンピースタイプも大人っぽいのがあるんだね」
「…まぁ繋がっていると幼い印象は受けるがな」
「あのね、実はワンピースの方が身体のラインが分かりやすいから上級者向けなんだよ」
くるくると表情を変えて、唯緋は難しそうな顔で手に取った水着を見る。身体のラインだなんだと言われて俺は一体どういう反応をすればいいのか。
「…じゃあ、そっちの分かれてる方にすればどうだ?」
「ビキニかー!勇気いるなー」
着たことないから恥ずかしい、と言う唯緋に内心呆れた。これは女の買い物無限ループに突入しかねない流れだ。
「てゆうかさ、彼氏的にビキニはどうなの?あんまり他人に肌見せて欲しくない、とか…」
「別に思わないね」
「ちょっと」
膨れた声と共に腕を軽く叩かれた。冗談だと分かっているのか、顔は笑っている。
焼けたら赤くなりやすい体質のくせに、ビキニを着て日焼けに後悔する図が脳内に浮かんだ。仕方ない、もしこいつがビキニを選ぶなら日焼け止めを多めに用意しておいてやるか。
二種類の水着を真剣に吟味し始めた唯緋はしばらくそっとしておくのがいいだろう。そう判断してその場を離れる。
しかし見渡す限り、色鮮やかな水着水着水着。つくづく男には無縁な場所だと思う。
だが会社の慰安旅行でハワイに行った去年、社長と郭嘉殿の水着はえらく派手だった。まぁあの二人ならこの空間に何の躊躇もなく溶け込めるのだろう。
下着と大して変わらない面積の水着を眺めながら思った。
*
唯緋の元へ戻ると、決めきれないのか途方に暮れたような顔が向けられる。相変わらず優柔不断だ。
それも予想の範囲内だが。
「…これは、どうだ」
「えっ」
さっき見つけたビキニともワンピースとも違う水着を差し出してみせる。唯緋は呆気にとられたようにまじまじと見つめた。
「これなら焼ける面積も減らせるだろうし、着やすいんじゃないか?」
「…パレオ?」
「ん、そういうのか」
水着を見つめていた唯緋が、勢いよく顔を上げる。本当に、分かりやすいこって。
「かわいいし、これいいね!ありがとう賈ク」
「…ああ」
「あ…ね、これ色違いとかあった?」
首を捻って記憶を掘り返す。すぐに解答は出た。
「……あー、紫のもあったな」
「ほんと!じゃあそっちにする」
「何でだ?」
「だって賈クの好きな色だから」
さも当たり前のように即答するその無邪気さが憎い。
そうかい、と表面上は気のない返事をしてすぐさま背を向ける。背中越しでも分かる嬉しそうな気配、本当に勘弁して欲しいねまったく。
期待をしてね