#夏×現代×水着 その3
二人の続き



波打ち際ではしゃいだように上がる声が、バックの青空と反響して妙に眩しく聞こえた。
砂浜に押し寄せる波は青く透明できらきらと反射している。
使い古された言葉だが、夏だなぁ、なんてありきたりな感想を心の中で呟いた。

「今、あなたが思ったことを当てましょうか」
「…え」
「『夏だな』」

どきりとして向いた左、一人分程の間を置いて私を見る法正さんに目を瞠る。
彼の口から聞くとあまりにも幼稚な響きに聞こえた言葉に、羽織ったパーカーの裾を居心地悪く寄せる。法正さんは私の反応を楽しむかのように笑みを濃くした。
悔しいけど格好いい。あと、サングラス似合いそう。色々な意味で。
そんな不純なことを考えた心の内は読まれませんように。



我が社恒例の夏の社員旅行は、例年潮干狩りが鉄板だった。
それが今年の夏、突然に海水浴レジャーに変わったのは、社長と順調にお付き合いの続くとある社長令嬢殿がマリンスポーツ好きだかららしい。

あ、馬超がバナナボートから落ちた。
水の跳ねる音や歓声が上がる。ぼうっと眺める先は、まっさらな陽射しを浴びて光ってすら見えた。

「行かないんですか」

抑揚なく掛けられた声に、また目を隣に向ける。
大きなパラソルの下はどこか静かでほの暗く、太陽光が降り注ぐ砂浜の中でぽっかりと切り取られた空間みたいに思えた。その空間の中で二人、ビニールシートに腰を下ろした私に法正さんが苦笑してみせる。

「まさかとは思いますが、日焼け止めを忘れたとか」
「ちが、ちゃんと塗ってきましたよ」
「そうですか」

いわゆる荷物番なのだ、これは。
家族同伴可のため海遊びについてきた少年少女やそれに便乗する同僚、彼らの荷物をとりあえず見守る役目として意味はある。
そしてそれを買って出た私の隣にさらりと法正さんも腰を下ろしたため、私はむしろ今の時間を楽しんでいた。

「…法正さんは、泳ぎに行かないんですか?」
「そうですね…唯緋殿が行くなら行きましょうか」

そんなことを言って口端を持ち上げるから、私はまた法正さんから顔を背けざるをえなくなる。
このパラソルの下に居てはダメになってしまう気がする。二人きりだと錯覚してしまうから。

ちら、と盗み見た法正さんは、私と同じように上着は着ているものの下は言わずもがな水着で、水に入る気はあるのだと分かる。
なのにここに居てくれる。自分に都合の良い勘違いをしてしまいそうになる、法正さんも二人で居たいと思ってくれてるのかな、なんて。
あぁ暑い。私はごまかすように苦笑いしながら襟足を撫でつけた。

「水着は一応着てきたんですけど、晒していいもんなのかって我に返ってしまって」
「ほう」
「とても人には…」

尻すぼみになっていく語尾に、こういうことは気になる人に言うべきじゃないと今更ながら思う。
くそう、それもこれもうちの同僚が揃いも揃ってスタイル良いのが悪い。八つ当たりじみた視線を賑やかな波打ち際に向ける。

「残念です、パーカーの下が気になっていたんですがね」
「――え、」

ふいに聞こえた言葉を脳内で反芻する――隙もなく、気の抜けた声が漏れた。
パーカーって、私が着てるパーカーのことなんだろうか。
法正さんの口元は笑っているけど、私を真っ直ぐ射抜く目は冗談なのか本気なのか分からない。
そこまで考えて、ぼん、と首から上が沸騰した。

「な、え、!?」
「他の人間に見られたくないのなら、後で俺の前でだけ見せるというのは」
「お、お断りします!」

立ち上がってその場から逃走しようにも、照り付ける陽射しの下に出ていく勇気が出てこず顔を思い切りそらすことしかできない。
ドクドクうるさい心臓と、からかわれているのかと叫びたい心中。それなのに法正さんは、そうですか、残念です、なんて余裕綽々の声で言う。
左から視線を感じるが、無視を決め込む。
この社員旅行中はもう絶対に水着は着るまい、と固く心に決めた。




サマーブルーイエロー



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