甘ったるい響きで包んだ猫なで声や表面だけを塗り固めた媚びた仕草、その全てから醜い顔が覗いているということに彼女は気付いているのだろうか。
いや、気付いてすらいないんだろう。だから平気で、剥がれかけの外面を貼り付けて平然と立っていられるんだ。

あぁ、そんな見え透いた甘さなんかに笑みを返して、本当に腹が立つ。近い距離、寄り添うように立つ二つの影に訳もなく苛立ちが込み上げた。

わざと大きな足音を立てながら回廊を進み、目の前の姿に近付く。目は決して逸らしはしない。
案の定私の姿に気付いたらしい、顔だけは綺麗なその女がうっすらと口の端を持ち上げる。私を見やり、鼻で笑うような一瞥をくれてその場を去っていく。
去り際に、さっきまで散々媚を売っていた相手――趙雲の腕に軽く指を滑らせ離れた。



「あぁ、唯緋」
「…趙雲」
「ん?」

必要以上に尖らせた声も空気も、まるで気付かないかのようなふりをして趙雲が笑う。本当に嫌な男だ。
さっきまであの醜い女に向けていたものと同じ笑みを浮かべて私の顔を覗き込んでくる。

「…なに笑ってんのよ」
「いや?唯緋は愛らしいなと思っただけだ」
「…うるさい」
「だが惜しい」

更に笑みを濃くした趙雲の指が、すい、と伸ばされ、私の頤をやや強引に持ち上げた。
きっと睨み返すと、とても近くにある趙雲の目が少しだけ意地悪い光を帯びる。

「悋気はもっと可愛く起こしてくれないとな」

腹立たしいことに、私はこの男を愛してしまっているのだ。




沈みゆく赤




私という公然の立場の女がいるということを知って、彼に近付いたんでしょう?劉備殿が立会人となって誓われた関係であるということも勿論折り込み済みのはずね。それを蔑ろにする意味まではその頭では考えもつかなかったの?まぁいい。そんなことは結果論だもの。私が言いたいのは、その下卑た甘さで隠したつもりでいた醜い顔や声、存在そのもので彼の前に立っていたということ。見上げた根性ね、そんな女が絶えることなく次から次へと現れるんだから、彼はあなたみたいな醜い女連中には格好の蜜なわけ。見目か立場かはたまたその武勲か、彼の何にたかってきたのかは知らないけど、最後に目に入れていたのが彼で良かったわね。だってあなたが取り繕いとはいえ一番着飾って一番美しいように見えるときに死ねるんだから。



自分の持つ付加価値だけで寄ってくる女の行く末なんて興味も無いあの鈍い男を、私は狂おしいほどに愛している。



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