#社会人設定
何もすることがない休日。
窓から広がる青空を眺めながらの朝風呂はなんて贅沢なんだろうか。
「ちょっと姿勢を変えてくれるかな?私に背中を向ける感じに」
――強いて言えば、目の前でムードもへったくれもない発言をかます無駄にいい笑顔の優男が居なければなお良い。
「…私言ったよね。二人で入ったらせまいから嫌だって」
「はは、唯緋が姿勢を変えれば多少は楽になるよ。というわけで私の方に背中を向けて足をこう…」
「何が『というわけで』だ」
ジト目で睨む私を清々しいほど意に介すこと無く腕と肩を掴んで体を反転させようとする郭嘉の笑顔に軽く怒りが沸く。
どうやらこの男は圧迫感を感じるという神経がどこかへ行ってしまっているらしい。しかも終始全開の笑顔。
ついさっき、同じ笑顔を浮かべたこの男に脱衣所に連れてこられ、問答無用で剥かれた記憶が甦り思わず渋い顔になる。
渋々体の向きを反転させて郭嘉が浴槽に伸ばしたふくらはぎの間に腰を下ろすと、間髪入れずに脇腹にするりと腕が差し込まれて体が、びく、と跳ねた。
抵抗と抗議の声を上げる間も無く、程よく筋肉のついた太股の上に座らされ白い腕にがっしりとホールドされる。見た目に反してこういうときの郭嘉の腕力は強い。
「…暑いんだけど」
先程より幾分か高くなった視界から肩越しに背後の男を見やると、郭嘉は爽やかな笑みを浮かべて私の剥き出しの肩甲骨に唇を落とした。
くすぐったくて軽く身を捩る。ぱしゃん、と水音が跳ね、郭嘉は笑いながら唇を離して私の背中に胸板を押し付けるようにして抱き締める。
「だから、暑いってば」
「そう?私は温かくて気持ちいいよ」
「…汗かいちゃうじゃない」
「後で流せばいい」
丁度良くここはお風呂だしね、と言ってにっこりと笑う郭嘉に溜め息を吐き、私は観念して力を抜いた。
「…お風呂上がったらちょっと遅いけど朝御飯にしよっか。何食べたい?」
「ん?あぁ、確か冷蔵庫に美味しい冷酒が…」
「ちょ、朝から飲むのはやめてよ」
「そう?それじゃあ…」
「…フレンチトーストとか、パンケーキとかじゃだめ?」
「随分と可愛らしいね。良いよ、唯緋が食べたいものなら私も食べたいかな」
「…ん」
二人同じシャンプーの匂いと、不思議と郭嘉からする太陽の匂いに包まれて私が吐く溜め息は、認めたくないがきっと幸せの色をしているんだろう。
永久糖度
「……ねぇ」
「ん?どうかした?」
「…なんか、当たってるんですけど」
「はは、唯緋の体が柔らかくてつい、ね…って」
「やだ!離せ!」
「まぁまぁ、仕方ないということで…」
「断じて仕方なくない!」
「いやーでも私にもどうしようもなくてねー」
「無理!せっかくの休日なのに朝からとか無理!ふざけんな!」
「んー…なら私が1人でやるから唯緋はそれを見ててくれる?」
「何名案浮かんだみたいな顔してんの!!却下!!」