午前の鍛練終わり、一緒になった張コウと城下へ降りて昼食をとった。いつもながら張コウの選ぶ店は外れがないと感心する。店の美しさが云々という演説は右から左だ。食事とは料理を味わうこと第一。
食事を済ませ店を出た天気の良い昼下がり、お互いに今日はその後特に予定がなかったためなんとはなしに市街をぶらつく。顔馴染みらしい武器屋の主人に、逢瀬かと声をかけられ自慢気に肯定した張コウを小突いて笑った。

「いつから私たち逢瀬するような関係になったっけ?」
「さて、いつからだったでしょうか」
「確かに張コウのことは好きだけどね」
「嬉しいですね、私もですよ」
「ん、曹操様の次くらいには」

殿も罪なお方ですね、と言って頭を押さえるふりをする張コウに、心の中で小さく舌を出す。
姿勢を戻して綺麗な笑みを見せる張コウに私も笑顔を返してまた歩き出した。
彼はまだ尻尾を見せない。

もうそろそろ、潮時なんじゃないかとは思う。
お互い、真正面から気持ちを晒け出してみたり、腹の探り合いをしてみたり。自分が良い大人になってみて分かったことだが、存外駆け引きというのは面倒くさい。
しかし、無邪気に好きなものを好きだと口にしていられた少女の時代は余りにも遠い過去だ。
それは目の前のこの男も同じなのかもしれない。

「この後どうする?」
「良い香りの珍しい香油が手に入ったのです。唯緋も髪の手入れなどいかがですか」
「…張コウってさ、そういうのばっかりだよね」

揶揄するように眉を上げて言うと、張コウは目を細めて唇に綺麗な弧を描いた。

「では何か考えが?」
「んー、……だめだ。書物を読むくらいしか思い付かない」
「似たり寄ったりですね」

こめかみを押さえる私に苦笑した張コウが、す、と私の手を取り柔く握る。顔を上げると、わざとらしく意味ありげな流し目。

「似た者同士、もう少し歩きませんか」

あ。
尻尾が見えたかもしれない。

そっと指を絡めて触れ合う面積を広くする。張コウが僅かに目を瞠るのが分かった。

「物欲しそうな顔」
「……あぁ、」

目を伏せて困ったように笑った張コウが、握った手に小さく力を込めて私の指を包む。
瞼を持ち上げて私を見下ろした瞳は今の張コウらしからぬ幼さを湛えている気がした。

「…気付かれてしまいましたか」
「うん」
「潮時かもしれませんね」

さっきまで私が考えていたことと同じ言葉が張コウの口から出てきたことに少しだけ驚く。そろそろ素直になり時かもしれない。
今日がその日だったみたいだから。




構われたがりウィスパー



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