#仲権くんシリーズ



雨の日は嫌いじゃない。
元々唯緋はそこまでアウトドア思考じゃないから、二人でただ家でゆっくりすることは珍しいことではなかったりする。
だが、こうしてお互いに大学生となった今、そうした時間すら頻繁には作れないようになってしまったのだ。俺は部活、唯緋はサークル。学部が違えば時間割だって違う。
だからこそ、俺の部活がたまにオフになってイレギュラーに唯緋と会うことができる雨の日は嫌いじゃないわけだ。



「――仲権、四巻どこ?」
「ん?あぁ、カバンの中」
「どのカバン?」
「エナメルのやつ」

あった、ありがと。
そう言って読み進めている最中らしい漫画を取り出した唯緋は、いそいそと定位置のクッションに戻りページを捲り始める。
ベッドに寝そべって眺めていたスポーツ誌から目を上げ唯緋を盗み見たが、もちろんあいつは全く気付かないようで意識はすっかり漫画の中だ。

別に、どうこうしたいってわけじゃあない。
そりゃまぁ確かにうちは父さんと二人暮らしだから父さんが帰ってくる夜まで唯緋と二人きりだし、雨降って外にも出られないから特にやることも無いっちゃ無い。
そして俺は至って健康な男子大学生です本当にありがとうございました。

「…唯緋」
「んー?」
「…喉とか渇いてない?」
「んー別にー」

悲しきは唯緋のこの漫画以外への興味の無さである。
元々気まぐれというか多少面倒な感情起伏の人間だから、こうやって何かに熱中しているときはそのままにしてやるのが一番良いのだ。
…もちろん、できるならあまーい雰囲気なんかに持っていきたい所だが、そんなことは一切顔に出さない。男は好きな子の前ではいつだってカッコつけていたい生き物なのだ。



「…ぐぇ」

とかなんとか考えながら雑誌を眺めていた俺の背中を、何の前触れもなく圧迫感が襲った。腹、腹が圧されて苦しいから腰の上に体重乗せるのやめろって。

「…唯緋?」
「んー」
「血は上んないのかそれ」
「ちょっと上る」

首を捻って頭だけで背後を確認すると、案の定背中から俺に凭れるようにのしかかる唯緋の姿が目に入った。軽く海老反りになっている唯緋に、どいて、と言うと素直に起き上がりベッドの上に腰を下ろす。
やれやれ、と同じように起き上がった俺を、唯緋はちょこんと座ったまま上目遣いに見つめてきた。

――全く、気まぐれなやつ。

衣擦れの音と共に距離をつめて、そっと顔の輪郭に手を沿わせる。耳の裏を指先で掻いてやると、唯緋はくすぐったそうに肩をすくめて笑った。
まるで猫みたいだ。

俺が顔を寄せると、唯緋は目を閉じた。
部屋に響く雨の音を聞きながら、俺は静かに唇を重ねる。

まぁ、希望通りの展開になったから良いってことで。




レイニーブルー・サンデー




突然階下から聞こえた玄関扉を開く音に、お互い慌てて離れ唯緋に舌を噛まれてしまうことを、このときの俺はもちろん知るよしも無い。



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