※ぬるいですがやることやってるので注意
ぴたり。
私の太股を撫でるように滑っていた手が動きを止める。
普段、刀を握るその手が、閨の中ではこんなにも優しくゆっくりと動かされるということを知ったのはいつだったか。
触れ合っていた皮膚をそっと剥がすように、少しだけ体を浮かせた惇が、仏頂面で私を見つめる。
「…何をしている」
「噛んだ」
あっけらかんと言ってやると、惇は眉間の皺を濃くして長い溜め息を一つ吐いた。それは分かっている、とか何とか言っているのも聞こえた。
惇の左肩、盛り上がった筋肉の窪みの柔い皮膚。そこに小さく残った赤い痕に、私は満足して笑みを浮かべる。
分かる人が見れば歯形だとばれてしまうかもしれないが、まぁ惇はいつもかっちり着込んでいるから大丈夫だろう。
そう自己完結していると、惇が首を軽く左に捻って私を見据えた。
「何故いきなり噛んだのだ、と聞いている」
「嫌だった?」
「…別に構わん」
驚いたがな、と言ってちょっと苦笑した惇に笑みを返す。
それを合図としたかのように惇の手の動きが再開され、優しいまま私の奥に触れた指に、思わず喉を晒すように仰け反らせた。
為す術なく零れた私の声に、惇は満足そうに口の端を持ち上げて指の動きを速める。こんな愛玩動物が上げるような鳴き声のどこが良いのだろう。男心はやはりよく分からない。
***
「……っ、」
「…力を抜け」
惇と一つに繋がるこの瞬間、私はいつも息を詰める。鍵穴に鍵がぴたりと嵌まるかのようなこの感覚には、いつまでたっても慣れることはない。
そして惇は、無理に抉じ開けようとは絶対にしない。寝台の上ではどこまでもどこまでも優しいのだ、この男は。常時との落差に可笑しく思ってしまうくらいに。
ゆっくりと沈められていく腰と、耳元で吐き出される艶を含んだ息に、体の奥の熱がまた上がる。
「……と、ん…」
「…ん…」
「…惇、」
「…何だ…?」
つう、と惇の頬を伝う汗をぼんやりと見つめながら広い彼の背中に手を這わす。時折指にふれる傷に、目を細めた。
「惇の身体、は、……傷がいっぱいだね」
「…戦いでついた傷だ。珍しいものでもないだろう」
「うん…、んっ、……でも、なんか妬けるな…」
私の言葉に、惇はほんの少し訝しげな表情を浮かべる。
だってそうでしょう。私ではない、他人につけられた消えない傷なのだから。
「…だから、ここは、私専用」
上気した惇の肌にうっすらと浮かび上がる私のつけた痕に指を這わせながらそう囁くと、惇は浅く笑いながら私の唇を塞いできた。
触れ合った瞬間から激しい動きで翻弄してくる惇の舌に、頭の中はどんどんふやかされ指から力が抜ける。
やっと離れ、それでも殆ど触れさせたまま私の唇の上で惇が笑う。
「あまり可愛いことは言わん方が身の為だぞ」
「…本当のこと、だもの」
「そうか」
「…だから、惇も……痕くらい残してくれても、いいよ?」
私の言葉に、惇が一瞬真顔で目を瞬かせる。それが何だかかわいくて、ふにゃりと笑みが零れる。
「惇は優しいからそんなことできないんだろうけど」
「……それをこの状況で言うのかお前は…」
また眉間に皺を浮かべ、こめかみを押さえる惇に忍び笑いを漏らす。と、そんな私に惇は剣呑な顔を向けた。
「…何だ、余裕そうだな」
「…え、」
私の腰に手を宛てがい、潤む奥に突然、ぐっ、と籠められた力に、悲鳴にも似た声が喉から飛び出す。
そのまま激しく揺さぶりながらも、私の後頭部に回る手と熱を持った唇はどこまでも優しいもので、心まで鷲掴みにされたように熱くなる。
この男に果てしなく甘やかされどろどろに溶かされた私には、もう痕などつける必要すら無いのだろう。
見えない痕ならいくらでもあげよう