無造作に上げられ、ほんの少しだけ額にこぼれている淡くくすんだ金糸が風に揺れる。この色はいつだって私の心を惹き付けて離さない。
宮の回廊で私と目が合うなり、嬉々とした足取りで目の前までやって来たというのに、彼はどこか緊張したように目を泳がせて自分の髪をかき混ぜるだけだ。本当に分かりやすくて可愛い。

「――あ、あのよ、唯緋」
「唯緋『さん』でしょう?」

ね、甘寧?
言い含めるようにわざとゆっくりと紡いだ言葉に、甘寧は眉間にぎゅっと皺を寄せて居心地悪そうに目をそらす。その上頬がうっすらと赤く色付いていることに彼自身は気付いてもいないんだろう。

呉の将としての歴史も、年齢も、甘寧より上である私は、年上の威厳を込めた眼差しで甘寧を見つめてやる。その裏に必死に隠した感情を彼に悟られないように。
単純で可愛い甘寧は案の定、ちょっと不機嫌そうな表情を浮かべて私に、ちら、と目をやった。

「…良いだろ、別に」
「駄目。私が年長者であることには変わり無いんだから」
「なんつーか、…余所余所しいだろ」

拗ねたように唇を尖らせてそう呟く甘寧に、緩み出してしまいそうになる口の端を必死で抑える。
露ほども表情を動かさず、甘寧を上目に見つめながら口を開く。

「余所余所しい?そう?」
「お、おう。…なんだ、ほらよ、俺とあんたの仲、じゃねぇか」
「…それもそうだね」

私の発した肯定的な言葉に、甘寧は斜め下に置いていた視線を、ばっ、と私に合わせた。その顔は誰が見ても分かるくらいに期待に満ち溢れていて、私は思わず熱い息をゆっくりと吐いた。
私の次の台詞を待つ甘寧に、私はにっこりと笑ってみせる。

「甘寧は私の、大事な大事な仲間だものね」

――途端、甘寧の目が傷付いたような色に変わる。

背中から粟立つ興奮を、私は止める術もなく享受した。
あぁ、私の恍惚としているであろう顔を彼に見られませんように。また視線を足元に落とした甘寧を見つめたまま心の中で祈る。

そのまま、どこか意を決したかのような甘寧の乾いた唇が動くのを見つめていた。

「…あのよ」
「ん?」
「あんたには、知っといてもらいてぇことがあんだ」
「…なに?」

私の声は震えていなかっただろうか。溢れそうな感情をちゃんと押さえ込めていただろうか。



「俺にとって、あんたは――」



――駄目だ。我慢できなくなる。

つま先立ちになって、頭一つ分高い甘寧の首に両手を伸ばす。
そのまま身体を重ね合わせる瞬間、私の視界にとろけるような目をした甘寧が映った。
ぶわり、と私の全身を、目眩さえ起こしそうなほどの高揚感が支配する。

私はこんなにも、あなたを愛している。




気が狂いそうなくらいよ




あなたが私を欲しがるずっと前から、私はあなたの全てが欲しくて欲しくて堪らなかったのだから。
荒れてかさついた指先も、綺麗な色をした睫毛の一本までも。
だからお願い、今は私の顔を見ないでいて。
獰猛な獣の顔に気付かれたくはないの。



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