「…徐庶、ちゃんと座って。重い」
「おれはちゃんと座っているよ」

何なんだもう。面倒なことこの上ない。
右肩に嫌でも感じる重みに、軽い咳払いと共に肩を動かす。完全に首が前のめりに倒れたまま凭れているそいつは小さく呻いただけで、体を起こそうという気は更々無いらしい。
酔うと少し面倒になる、とは小耳に挟んだことがあったが、こういう方向だったとは。普段はどこか一線を引いたような人間だからこそ、その反動なのかもしれないが。

宴席で一人杯を傾けながら、どこか危なかっしくうつらうつらしていた徐庶に気が付き、ちょっと心配になって声を掛けに行ったことを軽く後悔する。隣に座った私を認めた途端、何の前触れもなくその体を遠慮も一切せず凭れかけさせてきたのだ。それなりに体格も良い徐庶は勿論それなりに重い。

「酔ってるんなら部屋戻ったら?」
「おれはよってなどいない」

酔ってんだろ。
呂律の回っていない言葉で堂々と言い募る徐庶に、溜め息を吐く。
どうしたものかと考えていたら、大きな足音を響かせて張飛殿が現れた。その顔は――案の定赤い。
ひしひしと感じる嫌な予感に口元を引き攣らせつつ見上げると、張飛殿は満面の笑みを浮かべた。

「なんだぁ、お前ら!そういう仲だったのか!」
「…違います」

あぁ、こういうときの勘ほど当たるのは何故なのか。
否定した私の声など聞こえていないように、張飛殿は愉快そうに笑って続ける。

「ははは!照れんな照れんな!いやーしかしお前ら二人、揃いも揃って浮いた話が無かったのはそういうこったな!」
「だから違いますって。張飛殿もお酒は程々にして下さい」
「おい、徐庶!そんな中途半端なことしてねぇで接吻の一つでもいっとけ!」

何言ってんだこの酔っ払いは!
喉元まで出かかった言葉を無理矢理飲み込む。張飛殿の酒癖の悪さは今に始まったことじゃない。そう自分に言い聞かせて必死に気を落ち着かせる。

――と、肩にあった重みがふいに無くなった。
ん、と目を向けると、徐庶は酒に頬を染めたまま眉を下げて小さく口を開いた。



「…そんなこと、できない。俺は唯緋殿が……好きだから」



――は、

ぽかん、と口を開けたまま徐庶を凝視する私に、徐庶はなんでも無かったかのようにまた凭れてくる。
見せつけてくれるぜ!とか何とか言いながら上機嫌で去っていく張飛殿の背を呆気にとられたまま見つめる。
とりあえず、私の右肩に甘えるように頬を擦り寄せているこの男を張り倒してすぐに部屋へ戻ろう、と決めた。




メロウビートは預けられない




孔明。最近、唯緋殿が目を合わせてくれないんだ。というか、何だか避けられているような気がするというか…。やっぱり、俺みたいな人間とは親しくなりたくないんだろうか。俺なんかが唯緋殿を、だなんて彼女には迷惑だと思うけど、俺はそんなに厚かましく好意を出し過ぎていたのかなって…なぁ、孔明、聞いているかい?



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