これの続き
「…本当に死んだかと思った」
「俺がこれくらいで死ぬかっつの」
「…すぐ退却命令出てたでしょ!なんで…っ」
「…俺の隊が総崩れになったら必然的に甘寧に助けを求めることになるだろ。そんなのご免だね」
嘘、嘘だ。
甘寧隊が凌統のとこに救援に行ったら、甘寧隊を後援にしていた私の背後ががら空きになるから、だから助けを呼ばなかったんでしょう?
でも、あんたはそんなこと絶対に言わない人だから、いつでも嫌な役ばかり負って、捻くれ者のふりして、私なんかを守って。
「…なんで唯緋が泣くんだよ。こんな格好悪い様になっちまって泣きたいのは俺の方だっての」
「…馬鹿、凌統の、馬鹿」
「はいはい」
ちょっと呆れたような、そんな優しい顔で私にそっと手を伸ばす。その手は痛々しい程に包帯で覆われていて、いつもの凌統の骨ばった長い指をすっかり隠してしまっている。
こんなになってしまってもまだ、私に触れる凌統の手はどこまでも優しいままなのだ。
私を責めたらいいのに。「こんなことになったのはお前のせいだ」と、言えばいいのに。
そうすれば、私は一生凌統の側にいられるから。
自分でも嫌になるくらい天の邪鬼で弱い私には、凌統の隣にいる資格なんかない。そう思う。
思うのに、
もう、駄目なの。
私は、凌統が側にいてくれないと、駄目になってしまう。
私の頬を撫ぜながら、そっと意識を手放した凌統の表情は穏やかで、微かに上下する胸の間隔もとても静かだ。
ぽた、と膝に落ちた冷たい一粒の涙は、私そのもののような気がした。
寝台の上に落ちたままの凌統の手をそっと握ると、包帯越しに、じんわりと凌統の温度が伝わってきて、私はまた泣きそうになった。
愛してるなんて言えない