#社会人設定
「馬超」
「なんだ」
「手伝ってって私何回も言ってるよね?」
「俺は今忙しい」
「ゲームするのに忙しいと言いたいのか」
「あぁそうだ。前田慶次のステータスがもうすぐでカンストだからな」
「ふざけんなこの野郎。あと私がいない時に勝手に兼続操作してレベル上げたの許さない」
「勢力繋がりで松風を見る為だ。仕方のない選択だった」
「言い忘れてたけどそのメモリーカード元々私のだから。プレイデータ消してやろうか」
くわっ、と効果音付きで私に変顔(威嚇してると思われる)を向けた馬超はコントローラーから手を離す気はないらしい。あ、モブ武将に慶次斬られた。目を離すからだざまぁ。
式までもう間もなくだというのに怠惰な日々を送る目の前のこの男は、招待状の宛名をせっせと書き続ける私を尻目に、休日だから、と朝からゲームに勤しんでいる。
外で仕事してるときは落ち着きなく忙しなく動き回っているというのだから信じられない。(馬超の従兄弟であり会社の同僚である馬岱さんからの情報だから本当なんだとは思うけど)
「だいたい、結婚式の招待状など宛名も一緒に印刷してしまえば良いことだろう。何故わざわざ手書きで書く必要がある」
「私達を祝うために来てくれる人なんだから、ちゃんと一言添えて宛名くらい書きたいの」
「…面倒だな」
言っておくが、馬超の仕事関係の人へのものが大半だ。
馬超の体面とか面目の為にこうして内助の功してる私に感謝しなさい。気づいてないんだろうけど。
ゲームにポーズをかけやっとコントローラーを離した馬超は、机の上に並べられたそれなりの量の招待状をしげしげと見る。
そして馬岱さん宛てのものをどこか躊躇いがちに手に取り、眺めた。
「…唯緋の気持ちは、その、良いことだと思うが、……俺はこんな面倒なことをする気になれんな」
「馬超のやる気スイッチはどこにあるの?押してあげる」
「やる気スイッチ……とりあえずお互いシャワーを浴びて部屋の電気を消してからなら教えてやらんこともない」
「いや意味分かんないんだけど」
さっきまでの殊勝な雰囲気をあっさりとどこかへやってニヤニヤ笑いながら私を見る馬超に、握ったボールペンを投げつけてやりたい衝動をぐっと堪える。
「押してもへこまんがな。むしろ逆だが。ははは」
「なに『ははは』って気持ち悪い。てかちょっと黙ろうか」
「お前は最中にそういう揶揄を言うと悦ぶだろう」
「…もう怒った。馬超が私を押し倒してじゃあ始めるか、ってときに『馬猛起の戦、見るがいい』って小っさい声で呟いてるの知ってんだからね」
そのこと書くぞ、と言って、ホウ徳さん宛ての招待状をひらひらと見せると、馬超は目に見えて衝撃を受けたような顔で肩を、ギクリ、と跳ねさせる。
焦った声で「何故知って…」と呟いた馬超を軽く睨んでやると、馬超は押し黙り項垂れて宛名のまっさらな招待状とボールペンに渋々と手を伸ばした。
「これ書き終わったらご飯作るから」
「…肉が食いたい」
「ん、了解」
そのぐらいの我が儘は聞いてあげるとしよう。
クリーム色のアフタヌーン