#高校生設定
「あ、唯緋。陸遜がさっき探してたぞ」
「え、そうなの?」
昼休み、廊下でばったり会った甘寧の言葉にちょっと首を捻る。
今日の昼は陸遜が生徒会があるから別々でってことになってたはずだ。クラスの違う私と陸遜は彼の要望でお昼は大抵一緒に食べている。
急な用事なのかな、と思いながら甘寧に、ありがと、と言って別れる。
あんまり気進まないなー、と思いながら私は教室に足を向けた。
ところが、陸遜はクラスにもいなければちょっと足を伸ばして行った部活の部室にもおらず、思わず訝しげな気分になる。
とりあえずまた校舎に戻りながら、私は急に不安になった。
いつもは、会いたいな、と私が思うタイミングでまるで計ったように陸遜が会いに来ることがほとんどだからだ。
嫌な胸騒ぎを振り落とし、私は駆け出した。
***
「あ…」
ようやく見つけた、北校舎三階の生徒会室で窓枠にもたれて外を眺めてる陸遜の姿に少しだけホッとする。よく考えたら今日の昼は委員会があったんだから、そのまま生徒会室にいて当然だ。
やっと見つけた、と思いながら、斜め後ろからの陸遜の横顔を廊下から見つめた。
いつだったか、生徒会といっても実はそんなに忙しい訳でも無いんです、と言いながら書類整理をしていた陸遜を今みたいに斜め後ろから眺めていたことがあった。
その背中に、好き、って、何度思ったことだろう。(結局全然言えたためしないけど)
私が教室のドアを開けると、陸遜は、ちら、と目だけで私を確認し、笑って体ごと振り返った。
「意外と早かったですね」
「…何が?」
「私を見つけるのが」
悪戯っぽく笑った陸遜の髪を、窓から入ってくる風が小さく揺らす。
相変わらず私の彼氏は綺麗な顔をしている。私なんか足元にも及ばないくらい。
「唯緋が私を探しに来てくれたなんて、本当に嬉しいですね」
「…よくそんなセリフさらっと言えるね」
「言えますよ」
「なんで?」
自分が照れたことに何だか腹が立ち、隠すためにちょっとむくれた私に陸遜は、からっ、と笑った。
「好きだからです」
「…あそ」
あぁ、また、好き、って言うタイミングを潰してしまった。
陸遜はいつだってそのタイミングをくれるのに、私はその10分の1も返せていない。
でも、やっぱり陸遜は全部お見通しって顔で笑う。
「ね、唯緋」
「今日みたいに、私もたまには追いかけられたいんですが」
「…気が向いたらね」
「素直じゃないですね」
「悪い?」
「悪くないですよ。そういうところ好きですから」
「…」
ほら、また。
「そうやってなかなか、好き、と言えないところも好きです」
「…うるさい」
次に、私が陸遜を追いかけるときが来たら、頑張って、好き、って言ってみよう。
何だか癪だから、そのときが来るまでは、好き、って言わないことにした。
たまには追いかけられたいんだけど
(本当は言えないだけだから、そのときまで待ってて)