#司馬昭視点
戦に大勝利した日の宴は、そりゃ豪勢なもんだ。兵や将の次の働きへの助長だって望める。ある意味、軍にとって必要なものだと理解してる。しかし、問題はそこじゃねぇんだ。
「…料理を大皿ごと自分の席の前に持ってくるな、って何回言ったら分かるんだよお前は」
呆れきった俺の言葉に、目の前のそいつは優雅な箸の動きを止めて、きょとん、と俺を見上げた。つかそんなめちゃくちゃ食うくせに何で箸使いが綺麗なんだよ。意味分かんねぇ。
「郭淮殿が、よく食べるのはいいことだと、是非持っていきなさいと言って下さったので…」
呆気に取られたような顔のそいつが言った言葉に、俺は思わずこめかみを押さえる。
好好爺になりかけてるんじゃないか、郭淮。
いや実際、唯緋はその小さい体のどこに入ってんだってくらいよく食べる。背丈なんか、元姫と変わらないくらいなのに。(胸は比べるまでもなく元姫の方がでかいが)
初めて見たときは正直引いた。夏侯覇も引いてた。なのに、郭淮やトウ艾は、良いことだ、とか言うもんだからいつしか宴の席ではお決まりのようになった。あいつら、唯緋を自分の子供かなんかと重ねて見てるに違いねぇ。
まぁ一応、年頃の女としてはどうなんだ、と言ってやりたいのだが、ここで大問題があるのだ。
「食を大切にするのは良い心がけだろう」
「司馬師殿!」
これだ。
あぁもうそんな普段皆に見せないような表情で唯緋を見ないで下さい。そいつ余計直さなくなるじゃないですか。てか兄上、あなたも自分の前にどんだけ肉まん置いてんですか。
肉まんをそれはそれは愛しておられる兄上は、唯緋の食べっぷりを大層気に入られている。食に対する敬意が云々。(意味分からん)
「唯緋、お前の食する所は見ていて気持ちが良い。昭の言葉など気にせず続けるがいい」
「司馬師殿にそう仰って頂けるなんて…!身に余る光栄です!仰せのままに!」
鷹揚に頷く兄上に、唯緋が感激したように頬を染めて拱手をし頭を下げる。顔を上げて兄上を見つめるその表情は、――とろけきっている。
そんな珍しく女らしい表情をしていても、そのすぐ前に大皿に盛られた料理の山があるんじゃぶち壊しだが。
兄上はそんな唯緋を雛鳥でも愛でるかのような表情で見つめている。
やってらんねぇ。
「…元姫ー。元姫ー?」
「…そんなに大声で呼ばないで、子上殿」
「いや、だって皆騒いでるからこうでもしないと聞こえないだろ?」
「聞こえてる。…で、なに?」
「んー、腹も一杯になったし。……そろそろ二人で抜け出さないか、って」
何だよ元姫その目。
「…仕事があるから戻るわ。子上殿、お休みなさい」
やってらんねぇ。
似た者同士の二人に乾杯