#高校生仲権くんシリーズ



季節が秋から冬に変わり、本格的な進学シーズンに入る。
大学部への内部進学者にももちろん進学テストという至極めんどくさいものがあり、あたしは塾に通うハメになった。それもこれもやたらと高い我が天命館の学力レベルのせいだ。(苦手な英語と数学だけだからそんなに遅くまでじゃないけど)
仲権はというと、癪なことにスポーツ推薦なんてものにちゃっかり引っ掛かったらしく、秋の終わり頃には進学も決まって部活にOBとして復帰するという始末。

ふぅ、と息をつきながら塾のエントランスの重たい扉を押す。
冷たい風と一緒に、最近よく鼻にする(っていうのかな)匂いが私の肩口を吹き抜けた。

「お。お疲れ」
「うん」

仲権もお疲れ、と言うと仲権は、んー、と返事をしながらあたしが左手に下げた参考書の入ったファイルケースをごく自然に取る。
左肩に自分のエナメルバックを背負い、左手にあたしのファイルケースを下げた仲権は、帰るか、と言って歩き出した。
仲権は割りと地味だけど、こういうことをさらっとしちゃうとこは全然地味じゃない。(なんか恥ずかしいから絶対言わないけど)
私は、うん、と頷いて隣に並ぶ。

私の塾がある日は終わり頃に迎えに行って家まで送る、というのは仲権の提案だった。一緒にいる時間減るなー、と駄々をこねたのは私だけど。
電車通学の仲権からすれば、駅前の塾から私を家まで送ってまた駅に戻ることになるからかなりの時間のロスだ。私がそう言うと、仲権は、俺の時間は有り余ってるから良いんだよ、と言った。
そのときは、自慢か!、とふざける方にしか持っていけなかったけど、内心心拍がものすごいうるさかった。(仲権がそんな、どきゅーん、となること言うからいけない)
そして仲権は、私を待つ間温かいカフェオレを飲むのが習慣になったらしい。

「今日部活、何したの?」
「んー?筋トレと基礎練。ま、いつも通りだ」
「一緒に筋トレやったの?」
「いや、俺はやらせる側」
「うわいやな先輩」
「OBの特権だからな」

そう言って笑う仲権は、本当に部のことが好きなんだと思う。引退したというのに同期や後輩と仲良く過ごしているのがなんとなく羨ましく思えた。

また、風が吹いて、私の右側から仲権の匂いがした。
私はちょっとだけ仲権に顔を近づける。

「…どした?」
「ん、仲権、カフェオレの匂いする」
「あー、まぁ、飲んだからな」
「最近の仲権の匂いだね」

にっ、と笑いながら言うと、仲権はちょっと私を見つめた。
そのまま何も言わずにプラスチックケースを持ち変えて、私との間にあった距離を詰め左腕で私の腰を少しだけ引き寄せた。

「へ、なに?」

突然密着したことに驚き慌てて仲権を見上げると、仲権は笑って口を開いた。



「いや、ちょっとマーキングしとこうかなってな。塾の男に牽制」



「…顔、赤いぞ」
「はぁ!?さ、寒いからだし!!」
「そっか」

一気に熱くなった顔を手で押さえながら私が焦って言うと、仲権は面白がってるように笑う。なのにすっごく優しい目をしているから、私は体温が上昇するのを止められない。(だから、そんな顔するなってば!)

仲権はそのまま左手で私の右手を取って歩き出す。私は俯いたまま歩くのが精一杯。
また、風が吹いて、さっきよりも甘いカフェオレの匂いがした。



微糖カフェオレ



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