さっきまで何してたんだっけ。
ぼんやりとした頭で考える。
今日は曹操様主催の宴会が開かれていた。
上座からすぐに消えてしまわれる曹操様を制御するために夏侯惇殿はほとんどお酒を召し上がっていなくて、それを夏侯淵殿と張コウ殿が笑っていた。
郭嘉殿と王異殿の呑み比べに巻き込まれた司馬懿殿がまず最初に落ちて、慌てて賈ク殿が司馬懿殿を引きずるように救出したり。確か、この間の宴席では賈ク殿がお二人に捕まり潰されていたはずだ。今日の司馬懿殿が他人事に思えなかったんだろう。存外世話焼きな賈ク殿らしい。
私の右隣には張遼殿がいて、今日の私の衣装を誉めてくれた。甄姫様が選んで下さったのです、と言うと、驚いた顔をした後、納得したように頷いて杯を口にしていた。
そして、そうだ。
宴会が始まったとき、私の左隣にいたはずの徐晃殿が、そっと宴席を抜けて広間から出ていくのが見えたのだ。
もう既に出来上がりつつある皆は、あまりにも静かな徐晃殿のその行動に誰1人気付いていないようで、私は気になって席を立ち徐晃殿を追いかけた。
広間から少し離れた回廊に徐晃殿は静かに佇んでいて、手摺りに片手を預けて月を眺めていた。
そっと隣に並ぶと、気配で気付いていたらしく、私を見下ろして穏やかに笑った。
そこまで思い出して、――私の右手をぎこちなく握り締める大きな手を見つめる。
「お嫌でしたら、どうか今すぐ振りほどいて下され」
絞り出すような声音でそう呟いた徐晃殿の横顔を、繋がった手から目を上げて見つめた。
駄目だ。頭が上手く働かない。
私には、徐晃殿のゴツゴツした手の感触と、じわじわと伝わる温度しか分からなかった。
ふと、月の光に照らされた徐晃殿の耳がうっすらと朱に染まっていることに気が付く。
「…嫌では、ないです」
「…そ、そうでござるか」
ならば暫しこのまま、と小さな声で言った徐晃殿への返事代わりに繋がった手に緩く力を込めると、同じくらいの力で優しく握り返されるのが分かった。
頬が熱いのは、お酒に酔ってしまったせいに違いない。
月が綺麗なので
「…徐晃殿」
「張遼殿?何でござろう」
「昨晩の宴会の途中、唯緋殿と二人で回廊に居るのを見かけたのだが」
「な!?み、見ておられたのか?」
「そして今朝から唯緋殿は徐晃殿をえらく気にしている様子。一体昨晩何をなさったのか?」
「ち、張遼殿…っ」
「はい」
「…他言は無しでお頼み申す」
「無論」
「実は、…酒の力を借りるとは我ながら情けないのでござるが……唯緋殿の、手を、握ってしまい申した…!」
「…は?」