#高校生設定
口の中で飴が、ころ、と転がる音がした。
もうすっかり来慣れた彼の部屋で、私の右斜めで真面目に数学と格闘する仲権を眺める。
握った仲権の手に、紙面を走るペンに合わせて浮く筋が私は割りと好きだ。
完全に私の手はお留守。だってしょうがない。英語あんまり好きじゃないもの。
ぴた、と、軽快だった仲権のペンの動きが止まる。
不思議に思って上げた私の目と、同じように不思議そうな顔をした仲権の真ん丸な目(悔しいことに女の私より大きい)が合った。
「…どうした?」
「仲権の手、見てた」
「手?俺の?」
仲権は若干首を傾げながら、ペンを持ったままの自分の手をちょっと動かしつつしげしげと眺める。そしてやっぱり不思議そうな表情を浮かべて私を見やった。
「よく分かんないけど面白いのか?」
「割りと」
「ふーん…っていやいや勉強しろよ」
苦笑しながらそう言って、仲権はまた数学に戻った。
あたしは頬杖をついて、仲権の顔を見つめる。
口の中で、小さくなった飴がまた、ころ、と音を立てた。
しばらく見つめていると、コト、とペンを置く音がした。
「唯緋」
「ん?」
「飴、出して」
「なんで?」
「キスできないから」
こちらを真っ直ぐ見つめてくる仲権に瞬きをする。
「出さなくてもできるよ?」
そう返すと、仲権は少しむくれたような顔をした。
仲権が、そっとあたしの耳の下辺りに手をやる。いつもの予備動作だ。
薄い二重の瞼と、形の良い眉毛と、前髪がかかるちょっと広いおでこ。
仲権は3秒くらいだけ触れた唇を離して、小さく笑う。
「…ほんとだ。できるな」
「でしょ?」
あたしが笑うと、仲権は急に男の人の顔になって、目閉じろ、と言った。ちょっとふざけて目を、ぱちぱち、とするとおでこを軽くぶつけられる。
もうちょっと仲権をからかいたいのはやまやまだが、ここは大人しく目を瞑っておこう。
加糖キャンディ
「…なに、仲権くん、先生と別のお勉強がしたいの?」
「……お前またベッドの下勝手に見ただろ」
そう言いつつ窺うように仲権の手が私の腰の辺りをゆっくりと移動していることについては何も言わないことにした。私だって野暮じゃない。