後悔先に立たず、という言葉を思い出した。
今の状況は正にそれだ。

「やっちまったな、これは……」

腕にかかる重さ。
人肌の温もり。
争いとは無縁そうな柔らかな肌。

こんなもの、暗殺者には無縁だった筈だろうが!
脳裏でそう叫んでいる自分もいる。
けれども、どうだ。
現実にはそんな存在がオレの腕に抱かれている。

……寝息をたてている幼い少女。

そして今、鏡の中には二つの死体。オレが抱えているこれの両親だろう。他の部屋にもいくつか死体があるが、格好からして下働きだった。

何故かは知らないが、殺せる気がしない。放っておける気もしない。

その時少女が抱えていたのだろう。カタ、と音をたてながら手の中から何かが滑り落ちた。
抱えながら眠っていたというならこれは大切な物だったのか?
拾い上げ見てみる。写真立てと写真だ。家族写真では無い。
写真だけ抜き取ってポケットに入れる。

「……まとめて持って帰るか」

この選択がこいつにとって幸せなのかは分からないが。
ただオレが満足したいだけなのかもしれない。

能力を解除する。
左右反転していた視界が一瞬にして元に戻った。同時に死体もこちら側へと戻る。
こいつらが何をしていたかなんて知らない。知らなくても生きていける。
事故として処分されるのか、それとも存在ごと消されてしまうのか。

まあ、どうでもいいか。
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