私が、私―――「×××」だった時の話だ。
大したものじゃない。
一日一日を無駄に過ごしていると感じていて、明日もぬるま湯のような一日を過ごすんだろうと思っているような人間だった。
毎日が単調でつまらないとも思っていた。しかしそれなりに楽しみもあった。
娯楽はここ以上だったからね。
「成り代わり」だなんて信じていなかったよ。
……いや、今でも信じてない。

「×××」だった時の話と言ってはいるが、どうしようも無く矛盾している。
未だ私の夢なのではないかと思っているのだから。
まあ、いい。
あちら側での最後の記憶と、こちら側での最初の記憶を話そう。
そろそろ眠ろうとゲームデータをセーブしてパソコンの電源を切ろうとしたところで暗転して、私は此方側に居た。
幼い子供の姿で。
テレビのチャンネルが切り替わるように目の前に広がる風景は鮮やかな緑と青と茶。
おかしい。そう感じたのだけれども、此方側の記憶もあったのだ。この鮮やかな風景を私は知っている。
私はここで生きてきた。

「多聞丸」

私を呼んでいると、こちら側の記憶を持つ私が反応する。

「何でしょうか、父上」

呼んだのは、父親らしい。

「―――――」
「―――」

無意識に続けられる会話。
目の前に父親が居るというのに酷く空虚だった。
内容は―――事務的、と言うべきか。
普通、父親と居るのだから安心感だとか、嬉しいだとか、そんなものを抱くものではないのか?
いやまあ、親子で不仲というものは珍しくも無いか。
争いの単位は人それぞれだ。
「×××」という意識ではその程度だったが中々根は深かったらしい。
らしい、というのは実際に立ち会った訳ではなく、記憶として存在するだけであった事と―――「多聞丸」改め「松永久秀」の中ではそう大した事でも無かったのも原因であるのだが。
決着もあっさりと父親の死で終わるのだから。
然もありなん、か。

よく言ったものだ。
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