私の好きな人は人間の手が好きらしい。
遅刻したぁ、と走って走ってぶつかって無様に転けて擦り傷が出来た手のひらを見て(ダラダラと血を流す膝の心配を全くしていなかったが)絆創膏をくれた吉良吉影さんに私は惚れた。
綺麗な手がいいのかぁ。
どうすればいいのかなぁ。と悩んだ末に張本人に聞くという私に乙女の思考回路は働いていない。
好きな人と喋れるじゃん。そんな打算は働いて私は吉良さんに聞いた。
「手ってどうやってケアすれば綺麗になると思います?」
ひらひら〜と目の前で手を泳がせると吉良さんはじっくりと舐めるように見ていた。恥ずかしい。
「どうしてそんな事を聞くんだい?」
「女の子としては綺麗でいたいじゃないですか。顔にはそんな自信無いですけど、手は結構綺麗な方だと思うんですよ。で、更なる高みに行くにはどうしたらいいかなーと」
「友達に聞く、とかでもよかったんじゃあないのか。私なんかよりは」
「年長者の方が色々知ってるかなぁ、なんて」
どうですかぁ。
差し出した手に戸惑うようにおそるおそる触れる吉良さんをちょっと可愛いなぁなんて思ったりして、というか手を撫でられているし。やっぱり手が好きなんだ。うん、綺麗にしたい。吉良さんのために。
「あー……私は、綺麗だと……思うよ、とても」
「嬉しいですねぇ」
「……我慢できなくなるくらいには、ね」
がりがりと何か硬いものを齧るような音が聞こえたけれど、その原因は分からない。
「ン〜可愛らしいじゃあないか」
ぶつかった彼女を助けた理由は『手を怪我していたから』に他ならない。
あの日絆創膏を貼った箇所は跡も残らず治っている。
「○○、手を繋ごうか。転ばないように」
「ああ、ごめんよ君を馬鹿にした訳じゃない」
「……愛しているよ」
だって美しい手をしているじゃあないか。