その日はオムライスでした。



「風君美味しい?」
「はい、とても」

にこりと笑った風君に内心ガッツポーズをとる。いよっしゃああァァ!


「風君、今日両親居ないし、泊まってくでしょ?」
「え…でも…」
「マ●オパーティーやろうよ。夜遅くなっても怒られないよ。それにさ、何かあっても風君居れば私も安心だし」
「え…あ、はい」


渋々頷く風君。嫌だったのかな。
でも、何にせよ風君と2人の時間が増えた事が私には嬉しかった。



「えっと、じゃあ私お風呂入ってくるね!」
「分かりました」
「じゃー、適当に何かテレビ見てて」
「はい」


にこり、と笑う風君。
昔から、生意気とは縁遠い子。
そんな風君にとっては、私は頼りないお姉さんかもな。







「ふぅー…」


ちゃぽんと湯船に浸かる。
…気持ちいい。



…そういえば、いつから私は風君を好きになったんだっけ。

かっこいいからという単純な理由ではなかった筈。
だって私の中では、どんなに大人びていても可愛い弟。
「んー…」



分かんない。
…忘れちゃったかな。








「出たよ、風君」
「あ、はい」
「風君も次入っておいで」
「え…っと、私はいいですよ」
「何よー、私の入ったお湯には入れないというの!?」
「…………違いますよ」


風君が目を泳がせた!


「え、私って汚い!?ひょっとして変な匂いする!?」
「え、違…」
「もっ、もしあれだったらお風呂のお湯入れ直そうか!?」
「なまえさん落ち着…」


風君の首もとの服を掴みガタガタと揺らす。
…そう、この時私は確かにテンパっていた。


「ぎゃっ!」
「!?なまえさっ…」



ばたーん!と音がして私は風君と一緒に倒れ込んだ。
勢い付けすぎたんです。どうぞ大馬鹿と罵って下さい。
あ、Mじゃないんで控えめに…。




…ハッ!私今風君の上!?


「風君ごめ…!?」


起きあがろうとした瞬間引き寄せられた。

風君が、近い。




「ふ、風君どうしたの?」
「…なんで」
「え?」
「なんで貴女はそうなんですか」
「え、マジドジでごめんなさい」
「…そっちじゃなくて」


ぎゅっと強く抱きしめられた。え、ちょ、風君!?




「というか、私がいれば何かあっても安心って…、私が何かするという可能性は考えないのですか」
「風君、え、え?」
「もう、弟なんて嫌なんですよ。そんな立場…うんざりです」



びっくりした。
あの、風君がそんな事を口にしたから。
自然と涙が流れ、風君の服に染みを作る。


「風君…ごめんなさ…私…、風君が私の事嫌いなんて…考えなかっ…」


言いながら離れようとすると、また再び引き寄せられた。
もっと、強く。




「私は…貴女が思っているような人間じゃない…。好きな人が入った浴槽に平気で入れるほど…大人じゃないんです」

「…え」




呆然としていると、風君はゆっくり起き上がり、私を優しく座らせた。


ぽかんとそのまんま座っていると、「明日、また来ます。その時…返事をいただけると嬉しいです」



そう言って自分の家に帰った風君を、私はただ見つめていた。
しかし、風君が玄関のドアを閉めた音と同時に、ぐわっと色々な感情や思考が湧いて出た。



…言い逃げじゃないの!


無責任な言葉に翻弄され


私がどれだけ葛藤していると思ってるのよ!


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風さんに「うんざり」という言葉を使わせるかで悩みました。
彼らしくない。でも彼らしくないからこそ表現出来る事…。という事で使わせました。


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