「ミーの、お父さんはどこですー?」

昔お母さんに聞いた事があった。

「…お父さんはね、星になったのよ」
「はー、星ですかー」

今は亡き母が言っていた言葉。
その言葉の意味はミーでも分かった。





翌朝。
あれから、フランとは口をきいていなかったりする。
まあ、私が避けてるんですがね。アハハハ…


しゃこしゃこととりあえずひたすら歯磨き中。

「おはよーございますー」
はふ、とフランが欠伸をしながら洗面所へ入ってきた。
私はついつい、ぶっと吹き出した。

「やだー、なまえ汚ー」
「だだだだまらっしゃーい」
「意識しちゃってー、かわいーですねー」
ニヤリと笑うフラン。
「し、してないっ!」
「真っ赤なクセにー」
「第一っ、姫子ちゃんは…」
「あの人は男ですよー。先輩が悪ふざけしたんですー」
「なっ、だっ…!」
「ひょっとしてー」

スッとフランは私に近づいた。


「妬いちゃいましたー?」
「ふごおぉーー!」
「ゲロッ!」

思いっきりフランを蹴り付けて洗面所を出た。
妬くわけないでしょー!









「弟が発情期なんだ。どうしたらいい?晴香」
昨日と同じく机に突っ伏した。

「お前の弟は猫か」
「そーかも知んなーい…」
どっちかというとカエルですがね。


「何があったよ」
「弟に告られた。むしろプロポーズされた」
「まじで!?意識してたのは弟君オチ!?」

あっははは!と大爆笑する晴香。
いやいや笑い事違うて。


「弟君やるぅ」
「出来れば一生やんないで欲しかった」
「で、なまえはどうすんの」
「どうするもなにも弟だしさー」
「血が繋がってないんでしょ?結婚も出来るじゃん多分」
「でもだって…!」
「なまえー」
「ん」
「昨日の事全部話してみ」


恥ずかしいけど、晴香が言うならと話した。



「……」
「ってわけなのよ」
「なまえ」
「はい?」
「なまえは固定概念にとらわれてるだけだ!」
「固定ー概念?」
「そっ、弟君は弟だからってのにね。だって、聞いた限りなまえは絶対ヤキモチ妬いてたのっ!」


私が…?


「え、でも違…」
「くない!」

ええー!?


「絶対なまえは弟君の事好きなのよっ!」


私が…フランを…好き?







なんかすごい事になっちゃったなー
「ただいまー」
「おかえりですなまえー」


ただいまをした途端、フランが私をハグしてきた。


「フラッ…」
「大丈ー夫ですよー。父さんも母さんも居ませんからー」
「そういう問題じゃあない!」
「まあ、二人には悪いと思ってますよー。ミーをなまえと分け隔てなく接してくれて、息子として愛してくれましたからー。ミー嘘は分かりますけど、あの二人は嘘じゃなかったですしー」

フランは本当の両親はお父さんお母さんと言って、うちの両親は父さん母さんと言う。


「それなのに二人の娘に手ーだしちゃってー」
「出すなボケー!」

ぎゃー!と効果音がつきそうなくらい叫ぶ。
晴香のせいで余計意識しちゃうんですが。ねえ!


「…今別の奴の事考えてるだろー」
私の耳元でフランが喋る。
うあああ、黙れえぇ!


「じょ、女子っ!!女友達の事考えてたのっ」
「え、なまえそっちの趣味が」
「無いからっ!」




そんなやりとりさえ、じつは楽しかった。
でも…




コンコン。
「ごめんください」

「ほら、フランっ。人っ、離れて」
「ちっ」

空気読めねー客だなー。
と、フランの毒舌。こら、失礼でしょ。


「はい。今あけます」

ガチャリと扉を開いた。



「今日は。お嬢さん」
「はぁ…」

誰だこの人。
言うなれば、中年程のスラッとした英国紳士だった。
…誰かに似てる…?


「あの…どなたですか?」

とりあえず、聞いた。
そして

「私は…フランの父だよ」






何かが壊れた音がした。


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