「私で、いいの…?」

そう絞り出した声に、風君が答えた。

「あなたがいいんです」


そう笑った風君の笑顔は、今まで見たどの笑顔よりも綺麗だった。

風君が私を抱き締めたから、私もぎこちなくそれに応えた。


…って、ちょっと待とうか。


「ぎゃあああぁぁ!」

思い切り風君を押しのけると、風君がきょとんとした。
可愛くても無理なもんは無理だ。

私は、家から出てすぐに風君に出くわしまして。
だから、家の前だし、道端だ。


「あ、どうぞ続けて」
「お母さんんん!いつからいたの!」
「待って下さい!のあたりから」
「最初からじゃんかー!」


やめてくれやめてくれ。
しばらくからかわれるぞこれは。


「居るなら言ってよー…」
「いや、言えない状況でしょ。あれ」
「ですよねー」


あの中入っていったらむしろ凄いと思う。


「風君、だっけ?」
「はい」
「うちの子でいいの?こないだ病院行った時体重計ったら…」
「ぎゃあああぁぁ!」


慌ててお母さんの口を塞いだ。
な、何言おうとしてんのよ!


「まあそれは冗談として」


勘弁してくれ。


「とりあえずあんたたち遅刻だけどいいの?」
「あ」


時計を見ると、8時45分だった。
明らかに、遅刻。


「い、行こう!風君」
「はい!」


慌てて走った体は、家を出る前よりも火照っていて、足取りは…少し軽くなっていた。


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