朝起きて、なまえさんの家に向かった。
なまえさんは丁度家を出た所のようだった。

「なまえさん…」
「……」

なまえさんは下唇をぎゅっとかみしめた後、足早に私の横を通り過ぎた。

「待ってください!」
「……っ」
「どうして、逃げるんですか」
「…はなして」
「なまえさん!」
「はなして!」


こんな声を出されたのは初めてだった。
普段の楽しそうな声でも、照れる声でもない。
私を近づけまいとする声。


「……もう、私の事は放っておいて」
「どうしてですか」
「あの子婚約者なんでしょう?可愛いし、私なんかいらないでしょ?」
「なまえさん、昨日も言った通り…」
「私だって昨日言ったでしょ?分不相応なんだよ。私じゃ」


どうして。
どうして分かってくれないのだろう。
こんなにも、こんなにも好きなのに。


「どうして、そう思うのですか」
「風君はかっこいいし、優しいし、頭いいし、運動だってー…」
「それがどうしたっていうんですか!」
「痛っ…!」


思わず、なまえさんを塀に押し付けた。
少し顔を歪ませたなまえさんが気になったけれど、もう止まらない。


「顔をグチャグチャに傷つければいいのですか、テストの答案を白紙で出せばいいのですか、運動を出来ないくらいに身体を傷つければいいのですかー…」
「風、く…」
「どうしたら、どうしたらあなたと一緒に居られるのですか」
「……風君」


こんな風にあなたを困らせる私は優しくないでしょう?

どうしても分からない。どうすればあなたは劣等感を無くして私と一緒に居てくれるのか。
私より、本当はあなたの方が素敵な所がいっぱいあるのに。
私が、どれだけあなたに助けられたか。

なのに、それをうまく伝えられずに、こんな風に足掻いている私は、なまえさんが思う私とは程遠く、とても格好悪い。


prev - next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -