私は決めていた。
もしも風君にピッタリの素敵な人が現れたなら、私は身を引くと。
…こんな突然とは、思わなかったけれど。


「…はは」


あの子、可愛かったなぁ。
小さくお人形のような顔、くりくりした可愛らしい目、女の子らしい雰囲気、華奢で、胸は大きくて。

本当…お似合いだよ。


「なまえさん!」
「……」
「さっきのは違うんです!」
「…なにが?」
「彼女…鳴明は家が決めた婚約者です。…ですが、私はそれを了承した事は一度たりともありません!」


婚約者。


「あの子、鳴明ちゃんだっけ、可愛い子じゃん。何が不満なの?」
「…あなたじゃないから」
「……っ」
「あなたではないのなら、私は誰とも結婚する気はありません」
「…なんで?」

どうして、どうして。


「どうして、私なんか…」
「あなたは、自分の魅力に気づいてないだけです」
「だって、私は…っ」
「自分を卑下しないで下さい。どんな形であなたに出会っても私はきっとあなたを好きになる。それくらい、私にとってあなたは魅力的です」
「…っ」


どうしてよ、そんな。

…決意が揺らぐじゃないか。


「でもやっぱり駄目だよ」
「どう、して…」
「風君がどんなに私を好いてくれても、私は分不相応だって思っちゃうもん」
「…なら、どうして…、どうして泣いているんですか」
「……っ」


あれ、私…泣いてるんだ。
…なん、で。
どうして、こんなに痛くて苦しくて悲しいの。


「ご、めん…」


それを考えたら、私は思わず走り出した。
私を呼ぶ風君の声が後ろから聞こえる。

ああもう、なんで。



「どうして…よっ!」


今更好きになったって、もう遅いのに。


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