足を踏み出すと、そこはまるで地面が風で出来ているかのようにふわふわと現実味の無い場所だった。

「これ、落ちないの」
「落ちない落ちない」
「本当に、本当?」
「落ちる落ちると考えていれば落ちるよ」
「ひっ…」

不安感に囚われすぎたせいか、一瞬の浮遊感に襲われた。
けれど、落ちたく無い!という気持ちがあってか、それは収まった。


「もう!驚かさないでちょうだい!」
「ごめんごめん」


この道はなんて怖いんだろう。
ふわふわふわふわとして…まるで夢の中みたい。

「まるでじゃなくて夢だよ」

くすくすと笑うそいつが小憎たらしい。

「やめて、そんな事言われたら興醒めだわ」
「間違った事は言っていないよ」
「…それは、そうだけれど」
「そもそも、此処は君が夢である事を忘れさせない為の道なのだから」
「…そうね、忘れちゃったら…私、起きた時狂っちゃうかもしれないわ」

そう言いながら、ふぅ…と態とらしく溜息を吐くと、彼は「夢の中でまで溜息をつくものじゃない」と呟いた。




…私の生きる時代では、とある案が上がっていた。
『夢を介せば現実でのほんの少しの時間で多くの時間を経験できる。もしも夢を人生の予行練習として使えるならば、我々はきっとより聡明な生き物となれるだろう』
そう、考えた人が居た。
それに技術が追いついたこの世界…邯鄲の夢計画が始まった。
理論上は完成していて…残すは人体実験のみ。

「光栄ね、私が邯鄲の夢計画の経験者第一号よ」
「光栄なんて思ってない癖に」
「あら、そんな事ないわ。まあ、でもそうね…1番は…保証と報酬だわ」

この実験の報酬の多大な金銭。そして、何かこの実験が原因で人体及び精神に支障をきたしてもそれこそ死ぬまで手厚く面倒をみてもらえるという保証。

「どちらでもいい、どうせ今の時代若者に厳しいもの。安心してこれからを生きたいの」

それだけの条件だ。それなりにリスクもある。
内容としては、現実時間で15日。体感時間では数年程…私は連続した夢の中を生きる。
例えば過激なものや精神的負担が規定値を超えるとされる内容の夢であれば中断となる。
あとは装置により多少の操作はあるが自分の思考も影響された世界…の筈だ。



自分の置かれている状況を確認していると、段々光が見えてきた。
「ほら、見えてきたよ。夢の入り口」
「もう此処も夢でしょう」

ナビゲーターに元も子もない言葉を投げかけつつ、私はその光に足を踏み入れた。


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