「…逃げたい」
嫌な事が続くと私はよくそう考える癖があった。
逃げるってどこへ逃げるのだろうか。
「…寒い」
マフラーを少し上に上げ、私は口元をうずめた。
最近、チカチカと幼い頃の記憶が脳裏をかすめる。
…殆ど覚えていない位昔の話。
「…もう一度会いたいな、あの子に」
もう名前も思い出せないあの子。
もし、会えるなら…あの頃の事を…。
「ひゃっ」
強く風邪が吹いて、私は思わず目を瞑った。
…砂はギリギリ目に入っていない。
「……」
私はゆっくり、目を開けた。
「…木」
私の町のシンボルである大木がそこにあった。
「…あ」
私は、幼い事何度もここを通った。
何度も何度もー…。
この大木から。
「……」
あの子の所へ。
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