「少年、ようやくあと2時間だねぇ」
「そうですね!…楽しみです」
「うん」
もう朝日も登って、ふと後ろを見ると長蛇の列が出来ていた。
何人か後ろの方で「私トウヤにするんだー。だってそのために早く起きたんだもん」なんて声が聞こえるけど、残念!トウヤは私の家に来るのさ!
そう思っていると後ろの人に話しかけられた。
「ねぇ、あなたはどれにするの?」
「え、私ですか?」
「私はね、トウヤにするつもりよ。だから別のでよろしくね」
「はぁ?」
思わず思ったままの声が漏れた。
「私ね、トウヤに一目惚れしちゃったの。分かる?」
「でも、私もトウヤが…」
「恋する乙女になんて酷い事をするのあなた!」
「ひっ…!?あ、相手は携帯ですよ!?」
「だからこそ、私が望んだ通りになってくれるのよ!?あれだけリアルなんだもの、もしかしたら性的な事だってー…」
「いいかげんにしなよおばさん」
私にこれでもかという位に近づいて、とんでもない事をいいだした女性に、少年は声を発した。
「少年…」
「言っておきますけど、ヒトガタ携帯に性行為を強要した場合や虐待のような行為をした場合、ヒトガタ携帯はそのマスターから離れる権利があります。ついでにむこう10年はヒトガタ携帯を持つ権利を与えられなくなる。パンフレットに書いてあるのによくそういう事考えられますね」
そ、そうなんだ。
「それに順番は守るべきですよ。僕ら日付が変わるより前からずっと居たんですから」
「…っ、でも…私だって3番目に並んだのに…」
「だから、“トウヤ”と“コトネ”以外で選んで下さいよ。まだ選択の幅はあるでしょう?だめですよ、大人なんですから…こういう事しちゃ」
少年の説得で女の人は黙った。
…すごい、私じゃああは言えないもの。
「ありがとう、少年」
「どういたしまして。それに…ヒトガタ携帯にそういう事考える人は…俺は許せないんです」
「少年…」
なんだか少年が…まるでヒトガタ携帯に会った事があるみたいに感じるのは気のせいだろうか。
「さて、もうすぐ開店ですね。心の準備できてます?おねーさん」
「もっちろん!…ああ、ごめん嘘…やっぱりドキドキする。なんて挨拶しよう。仲良くできるかなー…」
「やっぱりおねーさんは落ち着くというか安心します」
「え?そ、そう?」
「良かったらメアド交換しません?“トウヤ”さんとも話してみたいし」
「本当?是非是非!」
少年と赤外線でメアドを交換していると、ちょうどお店のドアが開いた。
「おはようございます、いらっしゃいませ!店内が狭いので、2人ずつ順番にお入り下さい」
「行こうか、少年」
「そうですね」
まってて、わたしのけいたい。
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