「私、私…トウヤがいい!」


携帯会社のカタログを見て、私は言った。
トウヤとは携帯の機種名である。
明日から各店舗に導入される“ヒトガタ携帯”は、人間の形をした携帯達が、身の回りのお世話までしてくれるというものである。
しかも、性格、顔、体格すべてが1つ1つ同じものが無いオリジナルときている。
私が読んでいるのは、一番近い店舗の商品カタログだ。

「あら、かっこいいじゃない」
「ねー!ゲームとかのキャラクターみたい」
「でもこの“とーや”って、人気ありそうね」
「んー…」


“トウヤ”を見ると、やはり顔立ちが群を抜いて綺麗だった。
きっと、女子とか…もしかしたら男子だって…。


「……」





「さっむーい!」

21時。
私は携帯会社の店舗前にいます!
こうでもしないと“トウヤ”とられちゃうもの!

私は持ってきた毛布を身体にぐるりと巻いた。
ううぅ、あったかい。


「あっ」

私の前に、どうやら先客が居たようだ。

「…こんばんは」
「こんばんは」

まだちょっとあどけなさが残る、少し前髪が特徴的な少年だった。

「…少年は、どれを選ぶの?」

…トウヤだったらどうしよう。

「僕は“コトネ”ですよ」
「…コトネ?」
「この子です」

少年が指差したパンフレットの写真には、【NO.5107...“コトネ”】と書いてあった 。
茶色い髪を可愛らしく2つに結んである。

「わ、可愛い」
「この子、僕のふたごの姉にそっくりなんですよ」
「そうなんだ…」

ふたごの姉にそっくりなヒトガタ携帯を買うなんて、どういう事なのだろう…?シスコン…とか?
でも、その姉がいるなら似ている携帯が無くても…。

「おねーさんは何にするんですか?」
「え?あ…私はね、トウヤだよ。NO.108」
「えーっと、108…108…あ、これですね。うわ、かっこいいですねこの人」
「でしょー?ヒトガタ携帯って、なんていうか私の相棒みたいなものじゃない?あと、なんというか…ひと昔前に執事携帯とかいうコンセプトの携帯のCMあったじゃない?あんな感じも憧れなの!そしたらこのトウヤが理想というか…。可愛い女の子のメイドさんも捨てがたいけどねー。トウヤと楽しくやれたらいいなぁ」
「…おねーさんみたいなヒトガタ携帯のマスターなら、このトウヤも幸せですね」
「…そう?」


携帯が…幸せ…かぁ。
うん、そうだといい、なぁ…。


「あっ…」

深夜2時。私の後に女の子が1人来た。
茶色でふわふわのポニーテールが可愛らしい女の子だ。

「こんばんは」
「こんばんは!…えっと、あの!」
「…どうしました?」
「…どの子を選ぶんですか?」
「?俺はコトネを選ぶよ」
「私はトウヤを選ぶよ」
「…っ!」

女の子は一瞬泣きそうな顔をして、少し肩を震わしていた。

「あの!」
「ん?」
「トウヤをあの、私……、…すみません、今の忘れて下さい」
「…えっと」
「トウヤを、大切にしてあげて下さいね」
「う、うん…そのつもり…だけど…」
「失礼しますっ!」
「あっ…!」


ポニーテールの彼女は、ふわふわの髪を揺らしながら去っていった。
携帯を買いに来たんじゃないのだろうか。
それにー…。


「なんか、トウヤに似てた…?」


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