「ゴン…さん…」


宙に勢いよく投げ出されたゴンさんを見て、私は思わず一歩下がった。
だって、ゴンさん私を見てた。
宙に投げ出されながらも、一度も顔を逸らさず、私を見てた。

きっとゴンさん、怒ってるんだ。


「…なまえ」

髪の毛に力を入れながら、ふわりと私の前に着地したゴンさんから、私は目を逸らした。


「…なまえ、こっち向いてよ」
「…や」
「なまえ」
「だってゴンさん怒ってるでしょう?」

自然と涙がこぼれながら、絞り出すように言葉を紡いだ。

「…怒ってるよ」
「…やっぱり」
「なまえはいつも勝手だよ!」
「…だって」


だってああするしかなかったじゃない。
ああする意外に方法があった?
ないでしょう?
私から彼を手放すしかないじゃない!


「確かにオレは感情的になっていたよ。でも、でも…もっと話をしたかった。一緒に答えを出したかったんだ」
「…ゴンさん」
「だって、もしもオレが寿命を迎えるまで生きたなら、長い間会えないんだよ?」
「…ごめんなさい、でも」
「なまえの言いたい事は分かるよ。だってオレは、死んでない。ここにいちゃいけない人間なんだから。…それにもうすぐ、時間みたいだ」


そう言うゴンさんの目は切なくて、どこか遠くを見ているようだった。
…ああそっか。
ゴンさんは、実は一番それを分かってたんだ。
分かっているようで、何も分かっていなかったのは私の方。



「…ゴンさん、大好き」
「オレは愛してる」
「わ、私だって愛してるの方だよ!」
「ははは」
「……」
「……なまえ」
「なぁに?」
「行く前に、もう一度伝えられて良かった」
「…うん」
「……少しの間だけでも戻ってこれてよかった」
「…うん」
「……」
「……ゴンさん」
「…うん」
「いってらっしゃい」


そう笑うと、ゴンさんも微笑んだ。


「いってきます」


そう言って、もう一度ゴンさんは穴に落ちていった。
再び穴に落ちていく髪を見つめる。
涙を拭ってしっかりと、髪の終わりを見届けた。



…ねぇ、私ずっとあなたを待ってるよ。


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