「…なまえは死んでない!」

ゴンさんは声を荒げた。
私はぎゅっと下唇を噛んだ。
…ゴンさんの嘘なんて、すぐ分かる。

「ねぇ、ゴンさん…言って。ゴンさんに言って貰わないと、私決意ができない」
「決意って…」
「ゴンさんを送り出す事」

そう笑うと、ゴンさんは顔の陰りが増した気がした。

「どうして…」
「だって、ゴンさんはまだ死んでないもの」

死んだものの特権かしら。
ゴンさんと私は何かが違うと感じていた。
まるで見えない極薄のとんでもなく丈夫な壁に阻まれているような、そんななにかが。

「ゴンさんに触れると驚く程温かい」
「……」
「ゴンさんはきっと、目覚める時が来るから」
「……でも」
「その時にちゃんとゴンさんが、私を置いて戻れるように」
「やだ、やだよ!」

ゴンさんはまるでゴンの時のような口調に戻った。

「なまえを置いてなんていけない!」
「ありがとう。でも」
「なまえが居ない世界なんて戻りたくない!」

そう叫んだゴンさんに、自然と私の頬を涙が伝った。





あのね、わたし。
君が居るあの世界がだいすきだったのよ。


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