「私だってね、ちゃんとした絵も描けますぅー」
「ほう、じゃあ描いてみろ」
アンタはなんでそんな偉そうなんだよとか思いつつ、私の好きな絵本のうさぎを描いた。
「うさぎのそら…か。なかなか上手いな」
その言葉に私は目を見開いた。
だって、今までうさぎのそらを知っていた人は周りに居なかった。
ぐりおとぐらおとか有名どころばっかりで。
だから、だから。
「知ってるの!?」
「はなぞのひよこの作品だろう」
「そう!ひよこのひよこシリーズが好きでさぁ、ああでも、ひよこさんの作品で一番好きなのはうさぎのそらなの!うわぁ、知ってる人初めて見た(?)」
「俺も初めてだよ」
「あ、俺って事はあなたって男なんだ」
「ああ…、そうだな。Kとでも呼ぶといい」
「K…あー…そんな感じの人居たなぁ…教科書で」
「こころだな」
「うん、一応こころ全文読んでみたけど、結局先生死んじゃうのよね。死ぬなんて一番悪い償いの仕方じゃない?」
「奴は騙したんだ。騙すというのは、それに耐えうる精神と、それによって相手がどうなろうと一生その罪を背負うのだという覚悟が必要だ。奴にはそれが足らない上、浅はかだったんだ」
「えー…冷たいー…。…うん、でも…そっか」
先生は死ぬなんて思わなかったけれど。
Kは死んだ。
そして先生も、結局は。
「この話、やめよ。同じKで縁起でもない。あ、私の事は…ソラとでも呼んでよ。うさぎのそらにかけてー」
「ソラなんてイメージか?」
「うっさいなぁ。というかこの状況ってなんだろー、交換日記は違うしー、文通も違うしー。あ、交換机とか」
「…センスないな」
「なんだと」
気が付くとKとのやりとりが楽しくなっていた。
時には相談をしたり、テストが嫌だとぼやいたり、一番本音で話せる友人に感じた。
「…あっ」
思わず声をもらして気づいた。
…そうか。
「…もうすぐ一年なんだ」
一年といっても、今年が終わるという意味なのだけど、それはあと2〜3ヶ月でこのやりとりが終わるという事だ。
この席に座れなければ関係が途絶えてしまうほどに、この関係は薄っぺらなのだ。
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