少年を下ろして、謝って別れた。
…つもりだった。
「お前んち泊めろ」
「え…?」
「いいから泊めろ。こんないたいけな少年を夜遅くにこんな所に放置するわけ?」
考えてみればそうだ。
私は何しようとしたんだ。
馬鹿。すぐ考えれば分かるのに。
「…私なんて」
ぽそ、とまた呪文を始める。
「…死ん」
「それ、禁止な」
「え?」
「それ言うの禁止」
禁止って…呪文を!?
「駄目!」
「…何で」
「これが無いと私は…!」
言いようがない怒りが。
吐き気が。
憎しみが。
衝動が。
抑えられなくなって。
「私を…誰か…を殺したい位どす黒い何かが…私を…」
侵蝕する。
だから、私から呪文をとったら。
「殺せばいい」
「…え?」
「その時はオレを殺せばいい」
「…な、に」
「その代わりオレもお前を殺すから」
「……馬鹿じゃない、の」
「…でも」
お前はそんな言葉を、わざわざ口にしなくていい人間なんだよ。
そう言う彼に、私は困惑した。
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