「…?どこかで会ったか?」
「…私、昔…あなたにパンをあげたの。そして、沢山お話して、それで…」


カタカタと震える手を握りしめて、ぽつりぽつりと話した。

少年は、生きていた。

それはとても嬉しいけれど、私は少年を見捨てた事実は変わらない。
…見捨てた、なんて生易しいものではないか。見殺しにしたんだ。
私は、これまでずっと少年は死んだと思っていたのだから。

少年は、私をきっと恨んでいる。


「あぁ…お前、だったのか」


目を細めた彼は何を思っているだろう。
そして私は何を言えばいい?
ごめんなさい?…違う。そんなのは許される為の言葉。
…私は。



「…殺して下さい」



したいのは、欲しいのは、許しじゃない。…償い、だ。


「…は?」
「なまえ!?…駄目、なまえ殺したら…僕はお前を殺してやる!」
「僕、落ち着いて」
「…なんでそんな事になるんだ」
「私は一度あなたを見捨てた。見殺しにした。だから、私があなたを殺したように、あなたは私を殺す権利があるでしょう…?」

そう言うと、思い切り彼は息を吐いた。
まるで呆れたとでもいうように。



「…お前、馬鹿だな」
「うん、馬鹿。本当馬鹿」
「…ふ、2人して!私は真剣に…!」
「お前がさ、俺を助けようとした所で俺を助けられたか?できないだろ」
「それはそうだけど、でも…!」
「そりゃああの時は、お前を恨んだりもしたよ。お門違いだって分かっていながらな」
「…」
「でも、あの後ボコボコに殴られて、その辺に捨てられて体を動かせない状態になっても…それでも俺の恩人に救われるまで俺が生き延びられたのは、お前があの時自分の分まで俺にパンをくれたからだ」
「…そんな事な…」
「そんな事あるから今俺は生きてるんだよ。だから、謝る必要はない。…むしろ、…礼を言う」


…あぁ。


「ねぇ、僕」


涙が自然と溢れて、頬を伝っていく。
…私、は。


「私…幸せになってもいいのかなぁ…?」


幸せになっても、もう許されるかなぁ…。


そう涙声で呟いた私に答えるように、僕が私の手を握った。


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