僕に、噛まれた。
「うわああああぁぁ!」
頭を抱えながら、悶えていると、僕が「なにしてるの」だなんて言ってきた。
「なにしてるのじゃないわよ僕!あんた、首筋をかっ、かっかっ…!」
「噛んだら悪いの?」
「悪いのー!」
そう叫ぶと、僕はこてんと首を傾げた。
う、わああぁ可愛いな畜生!
「私だからいいものの、その辺の女の子なら一発でアウトよ!」
「何、さっきから。なまえ照れてるの?」
「…なっ!」
ちょっと待とうか。
そりゃあ私は前世で天寿を全うして、まぁ…あはんうふんな事もしたはしたっぽいけれど、今やその記憶は殆ど無くてつまり。
「………」
照れてますよ。まだ10くらいの幼い少年に照れてますよー!
「なまえ面白い」
「は?」
面白い?こんな小さな少年が?私を見て、面白い?
「うふふふふ」
ふざけんじゃあないわよ。
そう脳内で呟いて、僕の頬にキスをした。
「…へ」
ぽかんとした後、みるみる赤くなった僕にドヤ顔で言ってやる。
「分かったか!」
「…おい、お前ら。ドア開けっぱなしでそういう事はするもんじゃないぞ」
…え。
恐る恐る後ろを振り向くと、髪の長いオニーサンが居た。
「…す」
「す?」
「すみませんんんん!お見苦しい所を!」
「別に見たくないなら見なきゃいい」
「僕は黙っていなさい!すみませんすみません、よろしければお詫びを…」
「いや、別に…」
「いえ!あ、今ここに宿泊中ですか?何か持って伺いますので、よろしければお名前を…」
「…カイト、だが…」
…ん?
「か…い…と…」
キィンと耳なりがした。
…脳内で浮かぶ、あの時の、少年の顔。
ああ、そうだ。あの少年の名前は。
「あの、時の…」
少年の名前は、カイトだった。
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