それからというもの、なぜか少しずつ着実に、前の世界の事を忘れていった。
今覚えているのは、前世が存在した事。
この世界を漫画として見ていた事。あやふやながらのその内容ぐらいだ。
前の世界での名前も、家族も殆ど覚えていない。
それは仕方ない事だと思う。
だって、私はこの世界で「なまえ」という女の子として生きているのだから。
最初は辛かったけど今は受け入れた。
けれどそれをあざ笑うかのように、あの瞳が忘れられない。
脳裏に焼き付いて、幸せを感じる度、呪いのように思い出される。
「なまえ」
私は。
「…なまえ?どうしたの」
「…なんでもないよ、僕」
私は少しでも償えたらと思ってしまうのだ。
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