私には前世がある。
ここの世界が漫画で描かれていた世界に私は生きていた。
とはいえ、読んでいたのは私が幼い頃で、休載が続くうちに見なくなり、結局そのままであったから、あまり役に立つ知識は無いのだけれど。
主人公がゴンで、親友がキルア。キルアはゾルなんちゃらとかいう殺し屋一家の子。あと、なんか金髪の子とおっさんみたいなのの4人でハンター試験に立ち向かうみたいなかんじ?というくらいの知識である。

そして、私は此処に転生した。此処がハンターの世界だと気が付いた理由は「この文字は…!」とか「これは念…!?」とかじゃなくて、「え、ハンターって職種あるの?まじ?」である。
因みに此処に転生してから、私はとても裕福というわけではないけれど、特に日々の暮らしにあまり困らず、この世界の両親に愛されて育った。

そんな私は、親の都合で一週間だけ別の土地で暮らした。
そこは所謂スラムが近く、治安もあまり良くはなかった。

そんなある日、私はパンを食べていた。
お昼ご飯として買った2つのパンを持ち、食べ歩いていた。


すると、食べていた方のパンを、とられた。
取ったのは私とそう変わらないくらいの年齢の、ひどく痩せこけた男の子だった。
私は思わず追いかけた。
少年はこうして逃げる事に特化した足を持っていた。

けれど、もう何日も食べていない少年の体力は限界で、私は簡単に追いついてしまった。


「なんだよ、ぜってぇ渡さねーぞ!オレはこれを食わなかったら死ぬんだ!裕福な奴がオレらの命を奪ってるんだ、この人殺しめ!」

私にそう叫んだ少年に、私はもうひとつ持っていたパンを差し出した。


「あげる」

そう言うと、少年は一瞬目を見開いた後、口を開いた。

「施しなんかいらねぇ」
「違う、私は君に死んでほしくない。私が勝手に君にあげたいの」


そう言うと、少年はパンを受け取ってくれた。


「お前変わってるな」
「そうかしら。人より少し経験豊富なだけだよ」

だって私は天寿を全うしたもの。
ただ、あの頃の穏やかな感情は生まれ変わった瞬間に子供らしさに変わって。
大方の記憶はあっても、今の思考は大分こちらの世界の「なまえ」となっているだろう。

「お前なんていうんだ?」
「なまえ。少年は?」
「俺はーーー…」



それから私はその少年と色々な話をした。
なのに、私はー…。


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