「な…ん…」
どくんどくんと心臓の音を感じる。
その鼓動にあわせて、ずっしりと重い痛みを放つ腹部も波打って感じた。
血もドプドプと出ている。
ああ、これは。
「…さて、次は…」
ニタリと笑って私を見るヒソカさん。
…これは、殺される。
抵抗する事もなく、私は無惨に殺される。
だって私は弱い。
念しか無いんだ。
それ以外何ひとつ持っていないんだ。
…念、しか。
「…じゃあね」
ヒソカさんが今度は私の心臓を目掛けて手を出したその一瞬。
その一瞬だけだけれど…私は、この世界を嫌悪し、絶望した。
「世…界、放棄」
小さな小さな声で呟くように発したその声で私の唯一の力が発動した。
ぶわりと風が舞う。
…ああ、落ちる。
この落ちる感覚はあの時と同じ。
「もし、また君の世界に絶望したなら、強くなってまたおいで。君は強くなるし、幸せになる」
私が最後に見たヒソカさんは、いつもの顔だった。
さようなら。
さようなら。
ばいばい、世界。
…ヒソカさん。
私は念で体を守るようにしてから、すっと目を閉じた。
「だって君は、僕に似ているんだから」
その何度も聞いた言葉は、最後は聞けずじまいだった。
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