「あのね、あのね、みっくんにね、ふられちゃったの…」


自分達がまだ幼かった時、なまえが泣きながらそう言った。
ぐすっ、ぐすっ、と音をあげながら、顔をぐしゃぐしゃにして泣くなまえの涙に触れた時、俺はなまえが好きだと知った。


だから、俺はもうなまえに触れるのを止めたんだ。


理由は単純明快。
なまえは俺を好きにはならないから。
コイツにとっての俺は単なる幼なじみなのだから。
一番気の置けない存在としてなまえの中にありつづけるのだろうから。


だから、自分を守る為に、なまえに触れる事を止めたのだ。











…だというのに。


「ユウキ〜、ちょっと聞いてる〜?」


俺達はトレーナーとして旅に出るくらい大きくなった。
しかし、相も変わらず、なまえはべたべたと俺にしがみついてくる。
俺からは触ったりしない。いつもコイツから。
その行動は女子同士が仲良く抱きついたりしている様に似ている…というか事実コイツにとってはそうなのである。
なんの生殺しだ。

「はなれろ」

ぐいっ、とひっぺがすようになまえの頭を押す。

「いいじゃん、ユウキのケチー」


さらに俺に抱きついてくるのだ。
胸が当たっているとか、吐息が当たっているとか考えている俺は変態かと問いたくなるものだ。
いや、俺は健全なだけだ。普通だ。



「だからはなれろって」
「やーだよーだ!」

更に勢いをつけて来たものだから、思わずバランスを崩した。


「うわっ…!」
「ぎゃぁっ!」


ぎゃあとはなんと色気の無い…。
いや、コイツに色気を求めるだけ無駄なのは重々承知であるが。
とりあえず、今どういう状況なんだ。なまえと一緒に倒れて…。




た お れ て ?




「…え」
「……っ!」




今まさになまえを俺が押し倒しているような体制だった。
顔が近い。口になまえの熱い湿った吐息がかかる。


驚いたように目を見開いた後、いつもとは違って、なまえの顔が赤く、ぼおっとしていた。
視線の先は、俺。
目が合うと、ぱっと目を逸らした。



だから…さ。



「そういう事されたら、俺期待するよ?」
顔をなまえの耳元にもっていき、言葉を放った。
思わず、こう言ってしまった。
はぁ…、いつもの関係にどうやって持ち直すか…。

頭の中で悶々と考えていると、かすかな声が聞こえた。





「…ょ」
「え?」
「期待して、いい…よ…」




顔を背けながら、真っ赤な顔でそんな言葉と云う名の爆弾を放ったなまえの唇に、思わず俺は自分も同じそれを押し付けた。






引き出された、





(俺、ずっと前から好きだった)
(私は最近かな!)
(おまっ、そこは同じ事言っとけよ)
(…とりあえず離れてくれない?)
(嫌だ)


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