※ヒロインはプラズマ団



「待ってぇ!チョロネコ!」

ダダダダダ!と激しい音を立てて逃げるチョロネコを追いかける。
チョロネコは私のポケモンであり一番のパートナーだ。
一緒にお風呂に入ろうとしたら、思いのほか熱かったらしく、びっくりしてチョロネコが飛び出した。
バッとタオルを巻いて追いかける。

…あ、タオル一枚とかまずかったかなぁ。

曲がり角でドン、とぶつかってしまった。やばい。
恐る恐る顔を上げる。
女性だったらいいなぁ…とか。


「…N様!」
「なまえ、その格好どうしたの?」
「すみませんすみませんすみません」
「うん、なにかあった?」
仮にも女の子のこんなよろしくない姿。
これに動じないN様は決して大人だからとか見慣れているとか単純な理由ではない。
N様は良くも悪くもピュアでイノセントである。
私と年齢はそう変わらない彼。
子供より純粋で、大人より意志が強い。
本当、不思議なお方…。

「あの…私のチョロネコが…」
「?この子?」

見ると、チョロネコはN様の肩の上でN様にすり寄っている。
もう、この子は!


「もう、どこ行ったか心配したのよ?チョロネコ!」
「みゃうん」
「N様申し訳ありません」

ぺこりと礼をする。
そして、ス、とチョロネコを抱き上げるとびしょ濡れだった。
という事は。


「ぎゃっ!」
N様の肩がぐっしょりと濡れていた。

「申し訳ありません申し訳ありません!」
「大丈夫大丈夫」
「チョロネコも一緒に謝るの」
「にょおん」
「嫌じゃなくて!」
「君はポケモンの言葉が分かるの?」
「いえ、この子すぐ仕草や表情にでるんです。小さな頃からこの子と一緒だからこの子の事はなんだか分かるというか…」
「へぇ」


そう、小さな頃からこの子と一緒。
だから、ある日この子が遊びに出て(平和な町だったから)遅いからと探しにいったら、旅してきた人間に傷つけられていて、意識が薄れている中、体を引きずるように私にすり寄ってきた。
それを見て、私はなんともいえない感情が込み上げてきた。


あんな思いはもう嫌。
そう思ってプラズマ団に入った筈なの、に。





「N様は…全ての…全てのトレーナーからポケモンを…解放させるおつもりですか」



あ、れ。


「ええと…」



あああああ!



「すみませんすみません!今のは忘れて下さい!」

そう叫ぶと、N様はふっと笑った。

「そのつもりだった」
「そうですよねすみません本当にすみません……え?」



そのつもり…だった…?



「どういう…?」
「分からないんだ、…分からなくなったんだ。…どうしたらいいのか、僕が今まで築いた理想は、……トモダチを傷つける結果になるやもと…!」


苦しそう。
苦しいんだ。N様は。
苦しんでおられるんだ。
ピュアでイノセントな少年は、いつまでもピュアでイノセントではいられない。
学問では測れない、様々な人々とポケモンの気持ちを、広い世界に出て初めて知って、世界を知って、自分の考える世界との違いに気づいて、傷ついて、悩んで、苦しんでいるんだ。

「…僕は、どうしたらいいんだ…っ!」


みんなが崇め、奉り、従い続ける王様は、本当は同じ人間で…こんなにも弱く、脆い。

こんなに不安定な状態であの場所に立ち続けるのはどんなにつらかっただろう。


私は思わずN様を抱きしめた。


「大丈夫です、N様」



王様としての自分と、人間としての自分に苦しんでおられるなら。


「私達は大丈夫です。ですから…N様のその時思った信念を貫いて下さい」


好きに生きていいんだよ。
私達が好きでプラズマ団に入ったように、あなたも好きに生きる権利があるんだよ。
だからN様、泣くのを堪えなくてもいいの。
笑ってもいいの。
王冠だって、外してもいいんだよ。
あなたの望むように生きていいんだよ。



「ありがとう」
「どういたしまして」
「…今日はもう、遅い。君もそんな格好では体を冷やす」
「ああ、そうですね」
「ねぇ、チョロネコ」
「みょおん?」
「君はなまえが好きかい?」
「みゃうん!」
「そうかい」

笑顔でN様は立ち上がって。

「じゃあ、またね」









ーそれが私の聞いたN様の最後の声だった。


「N様…が…っ!」
「う、嘘」
「信じられないわ」
N様が英雄同士の対決に負けて、失踪されたと聞いた。


ああ、自由になれたんだ。


そう思う私は、この混乱の中一人笑顔だった。


「行こう、チョロネコ」
「にゃうん」
「うん、そうだね。…きっと、これで良かったのよね」




N様は、またねと言った。
きっといつかまた会える。
もう、あのピュアでイノセントなN様は居ないかもしれないけれど。



きっと私は、そのまた会える日をずっと楽しみにしている。





だって本当のあなたに会える気がするから




その日まで、またね。


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