※不謹慎注意
もしもレッドさん死亡説が本当だったら
「れっ…ど…」
雪の中にいる、彼。
彼は目の前に居るのに、誰も気づかなかったであろうが確かに視界の端に…雪からはみ出た赤い帽子と、手。
「えへへ…負け、ちゃった」
「……」
わざと、負けた。
彼には…パターンがある。何度もやると…少しつかめてくる。でも、負ける、わざと。
だって、勝つと彼は消えてしまう気がして。
「…」
「レッドは本当に無口だね?」
分かってる、分かってるの。
…レッドが死んでいる事を私は誰より分かっているのだから。
それなのに。
「じゃあね、また来るよ!!次こそ勝ってやるんだから」
そう言い放っても、レッドは微動だにしない。
バトルの時だけだ、レッドにちゃんと会えるのは。
レッドと、話したい。
無理だ、だって死んでいる。
バトルの時のみ発される低い声。
それだけ聞ければ幸せじゃあないか。
それでも、自分にレッドは死んでないと言い聞かせて、視界の端の雪に埋もれた本体と、そのそばに埋もれている6個のモンスターボールを見て見ないふりをする私は酷く卑怯だ。
「おばさん、今日もレッドに会いましたよ。レッドってば、バトルしたらもう何も話さないんですよ」
そうして、今日も彼の母親に優しく、そして最高に最低な言葉を吐くのだ。
嘘ではない最悪の嘘を。
「あの子は本当にポケモンバトルが大好きだものね」
そう、笑顔で少し寂しそうに遠くを見た。
「じゃあ、私そろそろ行きますね」
「またね、なまえちゃん」
「はい、また」
罪悪感にまみれた私。
「あ、なまえさん!」
「あれ、ヒビキ君久しぶり」
「聞いて下さいなまえさん」
「なあに、ヒビキ君」
「あの、シロガネ最奥の伝説のトレーナー…レッドさんに勝ったんです!」
彼の極上の笑顔に、私は最大の絶望を覚えた。
「その後レッドさん消えちゃったんです。ポッて。なんだったんですかね?」
ああ。
「それでなまえさん、あのー…前に好きなタイプ聞いたら強いトレーナーって言ってたじゃないですか」
…そうか。
「どのくらいって聞いたらレッドさんに勝てるくらいって…」
これが今までの報いなら。
「だから、あの、俺とー…」
この世界を力の限りぶち壊してみるのもいいのかもしれない。
私は狂った笑顔でボールを手に取った。
「バクフーン、ヒビキ君にかえんほうしゃ」
ーーーーーーー
ヒロインは消えてもまた現れる事をしりません。
ヒロインが世界を壊して、レッドさんの所には誰もこなくなったという話。
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