「ファイアくーん」
「……」
「ねーえ、ファイアくん。どうして返事してくれないの?」


なんだこいつは。…いや、分かってる。
昨日転校してきたみょうじなまえ。
五月蝿い事この上ない。隣の席になればみんな仲良しとでも思ってんのかコイツは。
…まぁ、もしかしたら大方の小学校低学年はそう考えるかもしれないが。俺は他とずれている事は自覚している。


「……」
「ファイアっていい名前だよね」
「五月蝿い」
「えっ…」
「……」
「ねぇねぇ、どこが五月蝿いの?ちゃんと教えてよ」
「全体的に」
「全体的にかぁ…。じゃあどうすればいい?」


なんだコイツは。
とりあえずとても変な奴なのだろう。


「…黙ってろ」
「はーい」


最初からこう言えば良かった。


「…」
「……」
「………」
「…………」
「……………」
「………………」
「…………………」
「……………………ぶはぁっ!」
「……」
「苦しいよ、ファイアくん」



何故息も止める。
馬鹿か。阿呆なのか。いや、馬鹿で阿呆なのだろう。



「息を止めないで黙るんだよ」

ため息をしながら言う。

「やだ」
「は?」
「それじゃつまらないでしょ?」
「そういう問題か?」
「そういう問題なの」

にこにこと笑うコイツは馬鹿なのか違うのか分からない。


「ファイアくんは人と話すのが嫌いだよねぇ」
「…まあな」
「私はね、人と話すのが好きなの。真逆なの」
「ああ、で?」
「私ねー、お喋りが好きなせいで、よくうざいって言われるのね。だからね、ファイアくんといたら、私少しはマシになれそうだよねぇ。そんでね、ファイアくんも人と話すのがちょびっとだけ平気になるの。いい考えでしょー」

えへん、偉そうに言う。

「つまり俺を利用したいのか?」
「リヨウ?リヨウってなぁに?」

たちが悪い。利用の意味を知らずに利用するとは。

「…相手にこの上なく失礼な事だよ」
「ええっ、ごっ、ごめんなさい!」

なまえは目をぱちぱちとしたあと、勢いよく頭を下げた。
なかなか素直だな。いや、子供特有の素直さだろうか。


「…怒った…?」
「別に」
「そっか。よかった」
「そう」
「ファイアくん、お友達になろうよ」
「…だから、」
「ファイアくんは何も話さなくてもいいよ。私の話を聞いてくれたら」
「面倒」
「私もファイアくんには返事してもらいたい。でも我慢する。これでおあいこ」
「……」


無言を了承ととったのかなまえは嬉しそうにしていた。





ー10年後ー

「ファイア君、昨日私昔の夢見ちゃった」
「……」
「懐かしいな。今考えれば、無自覚に利用する私ってなんか怖いね」
「……」
「そういえばこんな所に呼び出してどうしたの、ファイア君」



ス、と箱を取り出し、開く。そして、針で縫い合わせているかのように動かさない俺の口を、開く。
「ーーーー」
言葉を聞いたなまえは一瞬目を見開いた後、あの時のような嬉しそうな顔をした。
利用した癖に、変わってない。



「数年ぶりに電話以外で喋ったと思ったらそれ?」
「…別にいいだろ」
「あはは。可愛いよ、ファイア君」
「…で、返事は」
「ふふ、どうしよっかなー」
「…早くしろ」
「急かさないでよ。じゃあ、これからは夫婦らしく…少しは私に返事をくれるのかしら?」



「…努力する」
「それで十分」



そう言って俺の首に手をまわす。
こういう時はキスをねだっているのだというのは分かる。
…俺もしたかったから丁度良い。




お喋り好きななまえと口を堅く閉ざす俺。
足して2で割ったらちょうどいい俺達は、きっと「お似合い」だろうと、酸素が薄い脳内で思った。




「結婚しよう」



(そういえば、ファイア君の付き合おうの言葉が、友達になってから初めて聞いた言葉だった)


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